ノルウェーに本社を置くノルディック・セミコンダクターといえば、Bluetooth Low Energy(BLE)のチップメーカーという印象が強い。しかし今回の「ワイヤレスジャパン×WTP 2024」では、BLEに留まらず、セルラーでも高い技術力を持っていることがわかる展示を行っている。
IIJとSoftSIMで協業
その1つが、SoftSIMだ。物理SIMカードがeSIMに転換しスロットは省略されたが、まだ先がある。SoftSIMはSIMをソフトウェア化し通信モジュールに搭載することで、物理SIMもチップなしにセルラー通信を可能にする仕組みだ。これにより、端末のさらなる小型化、省電力化が実現し、耐久性も向上する。
SoftSIMによるLTEモデムを搭載しているのが、ノルディック社製の通信モジュール(SiP:System-in-Package)「nRF9160」シリーズだ。LTE通信(LTE-M)に加えGNSSレシーバーを内蔵し、測位・位置追跡機能を持つデバイスを小型化できる。日本では、IIJが提供するSoftSIMサービスに今年2月に対応し、導入事例を広げている(参考記事)。
SoftSIMのデモ展示。画面下部左側がnRF9160を搭載するPoC端末。SIMカードなしにSoftSIMで通信を行う
ブースでは、測位データをクラウドでリアルタイムに可視化するデモや、PoC用の小型端末を展示。PoC用端末はバッテリーで稼働し、6軸・4軸センサー、温湿度センサーも搭載するため、様々な環境で用いることができる。このサイズと性能が評価され「ケースだけ替えて販売している企業もある」(同社 カントリーマネージャーのジョン・ケニー氏)という。
SoftSIMによる端末の小型化・低消費電力化は温度管理も可能な「スマートラベル」を実現し「欧米の大手物流事業者がワクチンなどの医療機器の追跡に用いている」(同社 APAC Vice President of Sales & MarketingのBob Brandel氏)。バッテリーが1~2週間持続するため、アフリカ向けの製品がヨーロッパに横流しされるというような不正監視にも利用されているということだ。
次世代の主力SoCやパートナー製品も展示
また、次世代の主力製品となるマルチプロトコルSoC「nRF54H20」「nRF54L25」もアピール。プロセス数、消費電力の異なるSoCをラインナップすることで、多様なニーズに応える。今後の普及に期待がかかるスマートホーム規格・Matterに対応していることも長所の1つだ。
マルチプロトコルSoC「nRF54H20」(左)、「nRF54L25」。スロット数が多く、消費電力の大きいnRF54H20の方がやや大型
このような豊富な製品を背景に、ノルディック社はパートナー網を拡大している。村田製作所、ローム、FDK、加賀FEIなど、名だたる企業がノルディック社の製品を活用している。なかでも、BraveridgeのIoT汎用モジュラーデバイス「BraveJIG」はユニークだ。LTE-M、USB-C、イーサネットの3種類の接続方法に対応し、現場の状況に応じて工場のIoT化を簡単に始められることが特徴の製品だが、このLTE通信もノルディック社のnRF9160によって実現している。
BraveridgeのIoT汎用モジュラーデバイス「BraveJIG」。ハンドルがオレンジ色なのがルーターモジュール、青がセンサーモジュール、赤がバッテリーモジュール
より小型化、高性能化が進む通信モジュールの世界を体感してほしい。