日本のスタートアップ育成5か年計画
2022年11月、政府はスタートアップを生み育てるエコシステムを創出し、戦後の創業期に次ぐ第2の創業ブームを実現することを目的に、「スタートアップ育成5か年計画」を策定した。
公的資金に加えて民間からの投資も呼び込むことで、現在8000億円規模の投資額を今後5年間で10倍超の10兆円規模に拡大するほか、時価総額10億ドル以上の未上場企業であるユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出することを目標に掲げる。
同計画は、①人材・ネットワークの構築、②資金供給の強化と出口戦略の多様化、③オープンイノベーションの推進という3本柱を中心とする(図表1)。特に注力するのが、経済・社会課題の解決などにより、社会に大きなインパクトを与える専門性の高い先進技術であるディープテック分野だ。
図表1 「スタートアップ育成5か年計画」の概要
今年6月に発表された、岸田政権の「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~(骨太方針2024)」においても、「ディープテック分野の研究・事業開発に対し、支援段階や内容、方法の充実を図る」ことが言及されている。
ディープテックとは、AIやロボット工学、自動運転、量子コンピューティング、バイオテクノロジー、IoT、新素材などを指す。
国としてディープテック・スタートアップ育成を推進する理由について、内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 参事官(イノベーション推進担当)の有賀理氏は、次のように説明する。「日本は国内総生産(GDP)が名目・ドルベースでドイツに抜かれて世界3位から4位に後退するなど、国力の低下が懸念されている。そうした中にあっても素晴らしい技術や研究があり、それが日本の強みだ。ただ、世の中に出していく部分が弱いため、国を挙げて支援していこうとしている」
内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 参事官(イノベーション推進担当) 有賀理氏
日本総合研究所 調査部 上席主任研究員の岩崎薫里氏も「日本が得意とするものづくり、なかでも部品や材料を相互に調整することで高品質な製品を作り上げる『すり合わせ技術』を活かせるディープテックが、日本にとっての勝ち筋だろう」と話す。
日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 岩崎薫里氏
日本経済を牽引し、グローバルで存在感を発揮しているトヨタ自動車やソニーといった大企業も、創業当初は当然スタートアップだった。「各業界とも新興国の台頭などで競争環境が大きく変化しており、いつまでも既存の大企業に頼っているわけにはいかない。新たに日本を代表する大企業へと成長するようなディープテック・スタートアップの登場が待たれている」(岩崎氏)という。