日本のインフラシェアリング事業のパイオニアであるJTOWERは、2023年度に前年度の2倍強、112億円の売上を見込んでいる。
飛躍的な成長を牽引するのが、同社がNTTドコモから買収を進めている携帯電話基地局用の鉄塔設備を基盤とする屋外タワーシェアリング事業(タワー事業)だ。
JTOWERは2022年3月、ドコモと約6000本の鉄塔の買収で合意し、通信業界に衝撃を与えた。2023年9月には約1550本の追加買収を発表。合計約7550本の鉄塔の買収費用は2022年度の売上の20倍を超える約1260億円に及ぶ。JTOWERは、2024年度中に鉄塔の買収を完了する計画だ。
買収後は、これらの鉄塔の設備はアンテナや基地局装置などを除いてJTOWERの所有となり、ドコモは賃料を払って利用する形となる。
JTOWERは、鉄塔の維持・管理を効率化し、ドコモ以外の移動通信事業者(MNO)にも基地局の設置場所として鉄塔を貸し出すことで、投資の回収、収益拡大を狙っている(図表1)。2023年12月までに約5300本の鉄塔の買収を完了し、2023年度第3四半期は売上の過半にのぼる16億6100万円をタワー事業で稼ぎ出した。
図表1 屋外タワーシェアリングの設備構成
範は米国の事業モデル
JTOWERが手掛けるインフラシェアリング事業は、通信サービスの提供に必要なネットワーク設備の一部を通信事業者以外の企業が用意し、複数の通信事業者に貸し出すビジネスだ。シェアリング事業者の設備を利用することで、通信事業者は初期投資を抑えてネットワークを整備できる。複数の通信事業者で設備を共用することで、総コストも大きく下がることが期待できる。
海外では様々な形でインフラシェアリング事業が展開されているが、今回JTOWERが始めたタワーシェアリング事業は、代表的な事業モデルの1つだ。
米国ではAmerican Towerなどの「タワー会社」と呼ばれる企業が、2000年頃から鉄塔設備を放送事業者やMNOに貸し出すビジネスを展開、2010年代前半にベライゾンやAT&Tなどの大手MNOから鉄塔設備を買収して事業規模を一気に拡大した。北米の移動通信基地局用の鉄塔の7割は、タワー会社の所有だという。
JTOWERは、日本でのタワー事業の立ち上げを目的として2012年に設立された。当時はMNOの関心は薄かったが、それが10余年を経て、ようやく立ち上がってきたのだ。
JTOWERの創業者である田中敦史社長は、日本でこの事業が実現した大きな理由に「通信業界の流れやキャリアが資本を投じる分野に対する考え方が変わってきた」ことを挙げる。
JTOWER 代表取締役社長 田中敦史氏
5G網の整備の本格化を前に、急激な料金値下げ、電力料金の高騰などで、MNO各社の財務状況は厳しさを増している。そこで「資金をどこに使うか、いかに効率的にネットワークを構築して利益を挙げるかが重視されるようになってきた」(田中氏)という。
JTOWERは2020年から、離島や中山間地域などのルーラルエリアで、自社建設の屋外タワーによるシェアリング事業も行っている。2023年2月にMNOへの提供を開始し、約150カ所で順次稼働を開始しているという。