「5Gは分散時代の幕開け。ローカル5Gが日本最後の砦に」京大・原田教授インタビュー

日本発のグローバルIoT通信規格「Wi-SUN」の立役者である京都大学の原田教授は、5Gで必ず変化が起こると予見する。変化が明らかになるのは、5Gの「味見の期間」が終わる2025年以降。「日本企業にとってローカル5Gは最後の砦」とも語る原田教授に、5Gのこれからと通信システムの成功法則を聞いた。

――新しい通信システムについて、「味見5年説」を唱えられています。

原田 新しい通信システムが登場して、最初の5年間はいろいろなアプリケーションのトライが行われる味見の期間。5年目くらいから新しいアプリケーションが出てきて、7年目くらいから新しいデバイスが出てくるというのが、これまでの歴史です。3Gのときも4Gのときもそうでした。

――5Gはまだしばらく味見の期間が続きますが、味見を終えた後には、期待されているような大きな変化が本当に起こるのでしょうか。

原田 必ず変化は起きます。味見の期間中、ずっと助走し続けた人が新しいムーブメント、画期的なアプリケーションを生み出すでしょう。

過去の歴史を振り返ると、インターネット接続とシステムの世界共通化を目指して標準化されたのが3Gでした。モバイルでデータ通信できる時代がやって来て、2005年くらいから音楽のダウンロードサービスが徐々に広がり始めました。そして「次は端末だよね」となり、2007~2008年にiPhone、Androidが登場します。3Gでシステムも端末も世界共通化されてきたことで、大きなターゲットが定まり、次々と新しいサービスが出てくるようになりました。3G時代の終わり頃には、動画サービスの普及も見え始めます。

次の4Gも、最初の約5年は味見の期間でした。4Gは途中からアップロードも高速化し、下りと上りの両方で完全なブロードバンドを提供できるようになります。そして2016年に登場したのが「ポケモンGO」です。ポケモンGOと無線通信が切り拓いたのは「メタバースへの入口」でした。仮想空間の中に都市空間を取り込み、その仮想空間上にアバターで参加するというゲームがポケモンGOです。それまでも似たようなゲームはありましたが、ゲーム好きの方にとどまらず、一般ユーザーまでがメタバースに没入するようになったのはポケモンGOが最初でした。

また、個人による情報発信もそれ以前から行われていましたが、2015年くらいから、ユーチューバーが職業として確立していきます。

――小学生の「将来なりたい職業」ランキングのトップ10に、ユーチューバーが初めて入るのが2017年度でした。

原田 重要なのは、老若男女を問わず、一般ユーザーの方々が自然にメタバースに入ったり、自然に情報発信するようになったことです。

そして今、「そろそろ社会インフラにも入れていきましょう」ということで5Gが始まっています。社会インフラは人の命にも関わりますから、5Gでは高信頼というファクターが加わります。

原田博司 京都大学教授

Web3と5G

――対象が社会インフラになるだけで、5Gならではのアプリケーションも、メタバースと個人の2つのキーワードを軸に出てくる可能性が高いということですか。

原田 そう考えています。

今まではメタバースといっても、ゲームなど非常に限られたものでした。それが政府や企業までが使える、セキュアに商取引もできる高信頼のメタバースが1つではなく、複数の様々な分野で出てくるでしょう。2025年くらいまでに少しずつ確立されていくと見ています。

それだけではありません。これまでは中央集権型でしたが、個人間で新しいコミュニティを作れる時代も来ると思います。今、Web3という言葉が出てきていますが、個人間の分散型システムを導入しようという流れが到来しているのです。

なぜ、目の前にいる相手とデータをやり取りするのに、わざわざ公衆網を使って、東京や海外にあるサーバーにつなぐ必要性があるのでしょうか。

今まではセキュアでなかったというのが理由の1つですが、ブロックチェーンなどを使えば、個人間でもセキュアなシステムを実現可能になりつつあります。端末に搭載できるメモリー量などもかなり増えていますから、クラウドに全部頼らずとも、個人間でコミュニティをクローズすることが可能になっています。ブロックチェーンのような分散型台帳を利用して計算するとなると、個人間での高速通信も必要ですが、これもミリ波などの手段が段々と出てきました。

2022年現在、日本では一般ユーザー向けのミリ波は1つもビジネスになっていません。それはインフラに負担をかけすぎ、適切な使い方からスタートしていなかったためです。ミリ波のユースケースは、個人間などでの数メートルの近接通信しかないと考えています。

超高速・低遅延というのが、多くの方がイメージする5Gの姿かと思いますが、私の考えは若干違っています。セキュアな個人間通信の幕開けになるのが5Gだと思っています。

――Web3の時代、5G自体も分散型へとシフトしていくということですね。

原田 5Gについては、もう1つ考えていることがあります。4Gまでの世界には、何らかの「ディスアビリティ(障害)」が常にありました。しかし、5Gでは、それらのディスが少しずつ取れていくということです。

――具体的にはどういう形でディスが取れて、「アビリティ(能力)」に変化するのでしょうか。

原田 中央集権型で解決するのかもしれませんし、個人間もしくは近接通信で解決するのかもしれません。ただ、いずれにせよチョイスが出てくるということです。

どの業界にもディスアビリティはあります。それをアビリティに変えるため、各業界が求める利用形態に合わせて、中央集権型と分散型を併用できる時代がやって来ると思います。

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原田博司(はらだ・ひろし)氏

1995年、現在の情報通信研究機構(NICT)である郵政省通信総合研究所に入所し、2011年にNICTスマートワイヤレス研究室室長。2014年から京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システム専攻教授(現任)。Wi-SUNアライアンスの共同創業者・理事会共同議長(Boardco-chair)であるほか、米IEEE802.15.4g標準化委員会副議長、Beyond 5G新経営戦略センター 副センター長などを務める。博士(工学)

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