「発信」「気づき」「つながり」で組織の壁を打ち破る《2-3》ソーシャルテクノロジーがもたらすものとは――NTTデータ流ソーシャルテクノロジー

「Twitter」や「SNS」に代表されるソーシャルテクノロジーが、企業でも使われ始めた。厳しい経営環境を乗り切るために、組織へ組み込み、コミュニケーションの活性化に役立てようとする企業も現れている。本連載では、2009年のダボス会議で「持続可能な100社」に選ばれたNTTデータの取り組みを中心に、ソーシャルテクノロジーのメリットから活用のポイントを分かりやすく紹介する。

以上のこと(2-2参照)から、「昨日までと違う今日」を生きる現在の企業は、総力を挙げて“脳力戦”を展開する必要があり、そしてそこにソーシャルテクノロジーを活用できるのではないか、というアイデアが浮かび上がってきます。このアイデアをITという側面から補足してみます。

そもそもソーシャルテクノロジーは、インフォメーション・テクノロジー(IT)に包含されるものであり、IT活用のあり方のひとつと考えられます。そうすると、企業は従来もITを積極的に取り入れてきたわけですから、「今までと何が違うのか」という疑問が浮かんでくるかもしれません。確かにITは業務の効率化に大きく貢献してきました。しかし残念ながら、人が人らしく働くということに対して、必ずしも貢献してきたとは言い切れません。つまり、ITによる“働き方の進化”はまだ過渡期にある、という見方もできるのではないでしょうか。それを以下に説明していきます。

2.3.1 ITで失くしたものをITで取り戻す

まず、15年以上前、1995年以前のオフィス風景を思い出してください(その頃はまだ働いていなかった若い方は周りの人に聞いてみてください)。デスクにはパソコンがなく、当然LANも存在しません。誰かに資料を届けるにも面と向かって手渡すしかありませんでした。一事が万事、仕事をこなすには、顔を突き合わせたり、電話で人と会話をする必要がありました。人と人が話をすれば用件だけで済まず、雑談も生まれます。オフィスは常にガヤガヤしていました。

では、現在のオフィスはどうでしょうか。パソコンが一人ひとりのデスクに配置されています。誰もが簡単に電子文書を作成でき、それを誰かに渡したいなら電子メールで送信し、グループで共有したいならサーバーに保存すれば可能です。パソコン上で完結する作業が多いため、オフィスは静かで動き回る人も多くありません。この15年にわたる企業のIT化は、ある意味、ムダが生まれやすい人と人のリアルな接触を減らし、業務効率を高めてきました。業種・業態によって多少の違いはあるでしょうが、働き方を大きく変えたのは間違いないでしょう。

ただし一方で、隣人とすら会話することもなく黙々とパソコン上で作業を進め、連絡はすべて電子メール――こういう働き方を可能にしたのもIT化です。業務に直接関係のない交流は減り、同じオフィスでもひとつ隣の“島”にいる人になると何を担当しているのか分からず、いわんや別の部署となれば――みなさんも心当たりがあるのではないでしょうか。

IT化はオフィス風景を一変させ、そこで働く人々のメンタリティも変えました。デスクを向かい合わせていても、その間をパソコンのディスプレイが壁のように遮り、人の視線はいつもパソコンに向けられています。入社した時からそうした風景が当たり前の若手ビジネスマンにとっては「パソコンに向かっている=仕事をしている」であり、「パソコンから目を離していると、サボっていると見られる」と不安に思う人もいるようです。「近頃の若手社員はなにかビクビク働いている」という声をよく聞きますが、こうした点も影響しているのではないでしょうか。

もちろん、働き方や働く人々のメンタリティが変わり、総じて社内コミュニケーションが薄くなっているのは、何もIT化だけが原因ではありませんが、ひとつの大きな要因であるのは間違いないところでしょう。またIT化を進める上で、こうした変化がもたらす負の側面について十分に考慮してこなかったのも確かです。社員が割り当てられた作業をこなすだけの存在なら、それでも問題ありませんが、受身のメンタリティを脱し、自分で考えようとするとき、その負の側面が無視できなくなります。考えるためのヒントを得ようにも、社内の誰が何を知っているか、何を得意としているか分からないからです。組織の末端にいけばいくほどその傾向は強まります。

IT化されていない時代、企業内では人と人の接触は濃密でしたし、分からないことはまず人に聞くという習慣もありました。そのため、部門横断および社外にも広がる人脈ネットワークが自然と構築され、「○○については××に聞け」と業務課題に応じて適任者へ容易にアクセスできたものです。それが今や、タコツボ化しかけている企業内において、自然発生の豊かな人脈ネットワークはあまり期待できません。

結局のところ、IT化により業務の効率化を進める過程で、「良い意味でのムダ」「牧歌的な雰囲気」「話しかけやすさ」「顔の見える付き合い」「業務上で直接関わりのない人との交流」など、仕事を柔軟に進めるための大事な要素も一緒に失ってしまった、と言ったら大げさでしょうか。

では、昔と比べて働きにくい面があるとして、どうすれば良いでしょうか。ITで失ったものを取り戻すためにLANケーブルを引っこ抜き、パソコンをハンマーで叩き壊して回る――もちろん、それは本質的ではありません。現在に生きる我々が取るべき手段は、螺旋階段を上るように、ある観点からは戻っているように見えながらも、実際は、より良い方向に向かっていく。言うなれば、「ITで失くしたものをITで取り戻す」ことです。そこでソーシャルテクノロジーなのです。

今までのIT化で抜け落ちていたものをすくい上げるソーシャルテクノロジーは、ビジネスマンが働きやすい環境を手に入れ、企業が総力を挙げた“脳力戦”を展開するのを後押しします。その効能は様々な角度から語れますが、ここでは「人を探す」「ムダの効用」「スピード」の3点に絞って説明していきます。

本連載は、2010年1月にリックテレコムから発行されたソリューションIT新書『NTTデータ流ソーシャルテクノロジー ~「発信」「気づき」「つながり」で組織の壁を打ち破る~』(著者・Nexti運営メンバー有志)を転載したものです。

株式会社NTTデータ ビジネスソリューション事業本部
2003年、NTTデータ入社。2006年当時、社内の情報共有に強い問題意識を抱き、Nextiの一員となる。その経験を活かして理論と実践を求める企業の社内コミュニケーション改善プロジェクトに多数参画。Nextiのこころざしの灯を伝えながら、各企業のムーブメントをその企業の社員とともに盛り上げてきた。現在は、クライアントのEコマース事業の戦略立案に携わる。
一貫したミッションは、数多ある噛み合わない議論を噛み砕き、新しい観点を発想・提示し、目標の明確化に貢献することである。

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