「コンシューマ向けよりもむしろ熱い」――。
iPadに企業が熱い目を注いでいる。アップルが「魔法のデバイス」と呼んで世に送り出したこの端末は、電子書籍やゲーム、映像コンテンツなどを楽しむものとしてだけでなく、業務用モバイル端末として、瞬く間に企業の期待を集めた。
7月末のソフトバンクの第1四半期決算発表において、孫社長が増収増益の一因に「iPadの法人導入の好調」を挙げた通り、国内で発売されるや否や多くの企業がiPadを導入。ニュースリリースや報道を通してこれまでに発表された事例のうち、主なものを図表1にまとめたが、現在もその勢いは加速している。
図表1 主なiPad導入事例 |
また、企業向けにiPadの販売・導入支援を行う動きも活発化している。10月には凸版印刷がソフトバンクと提携し、法人向けに端末の販売、システム開発などを行うと発表。また、IIJはアップルと販売代理店契約を締結し、iPadの調達から通信インフラの構築、業務アプリ提供まで含めたソリューション提供を11月から開始する。
この熱は本物なのか。iPadは本当に業務を革新するのか。本稿ではそれを解明してみたい。
そこで、iPadの業務活用を大きく2段階に分けて考えていくことにする。第1は「何に使うのか」。そして2つ目に、「導入する場合、どのような点に留意すべきか」である。この前篇では、1点目を徹底的に分析していこう。
「顧客接点」で確かな効果
iPadをいち早く導入した企業は何に使っているのか。まずは先行者に学ぶことから初めよう。
図表1の事例一覧を見て明らかなように、iPadの活用場所は、店舗や受付窓口などの販売業務あるいは営業業務といった「顧客接点」が圧倒的に多い。商品カタログや、営業のプレゼンテーションツールとして使われているケースが目立つ。特徴的な例を挙げていこう。
国内発売(5月28日)前後の早い時期に“飛びついた”のが、アパレル関連の小売店舗だ。以前紹介したニューヨーカー(関連記事)のほか、ウェディングドレスを販売するノバレーゼは国内発売前に北米版iPadをドレスショップ「NOVARESE」店舗に試験導入した。動画コンテンツにより、紙のカタログでは表現できなかったドレスの“揺れ”などを紹介する手法で顧客満足度の向上を狙った。
飲食店では、ワインリストをiPadで提供したり、来店客がiPadから料理を注文するセルフオーダーシステムが登場した。そのほか、みずほ銀行も営業店窓口での金融商品等の説明にiPadを活用。ビー・エム・ダブリューは、iPad用に自動車のカラーリングシステムやカタログ、動画コンテンツを開発し、店頭で来店客とのコミュニケーションツールとして用いると発表した。
営業のプレゼンテーションツールとして活用しているのは大塚製薬、コクヨ、AIGエジソン生命、ガリバーインターナショナル、パチンコ機メーカーのフィールズなど。商品説明用のパンフレットのほか、社員向けの教育資料なども電子化し、顧客接点以外への適用も見られる。
面白いのは、ガリバーとコクヨだ。
ガリバーは従来、客先を訪問して中古車の提案を行う際、ノートPCで車種の特徴などを説明する営業支援システム「ドルフィネット」を活用していた。このノートPCをiPadに置き替えるべく、既存システムとの連携にいち早く踏み込んだ(下写真)。
中古車のガリバーインターナショナルは、既存の営業支援システムの端末としてiPadを導入した。同社では従来から、営業担当者が顧客宅を訪問してクルマの状態などを説明する出張販売において、独自の車両販売システム「ドルフィネット」を利用。この端末を、従来のノートPCからiPadに置き換える |
コクヨは顧客接点のみならず、社内会議での資料閲覧にも利用する。ペーパーレス化を推進させるためだ。
また、一覧表の導入事例のほか、業務支援システムをiPadに対応させるベンダーの動きも活発化している。約50のiPad活用事例を調査したシード・プランニングエレクトロニクス・ITチーム 2Gリーダ 主任研究員の原健二氏は、前述のサービス業のほか、「医療、教育分野での活用例が多い」と話す。「これに営業業務を加えた3分野での活用が広がっていく」と予測している。