<特集>特化型ワイヤレス進化論ボディエリアネットワーク最新動向「体表・体内に無線網」

超高齢化社会に直面している日本。医療費や介護の課題解決のため、健康維持にICTを活用する取り組みが進んでおり、BAN(ボディエリアネットワーク)のユースケースも広がっている。

人体を通信の媒介として活用する――。こう聞くと、驚くかもしれないが、人体を高周波信号の伝送路として捉え、有効活用しようとする研究は約30年前から行われている。

一般的な無線通信と比べて、人体を媒介とする方が減衰は少なく、効率的な通信が可能になることが注目されてきた理由だ。

人体通信をはじめ、人体表面や近傍、あるいは体内に配置したセンサーや端末で構築される近距離無線ネットワークを総称し、BAN(ボディエリアネットワーク)と呼ばれる。

2012年2月にはIEEE802.15.6において、BAN向けの無線方式が標準化された。

IEEE802.15.6の物理層は、①21MHz帯のHBC(Human Body Communication)、②日本で医療用テレメータとして割り当てられている400MHz帯のほか860/900/950MHz帯、2.4GHz帯などを利用する狭帯域(NB)通信、③3.1-10.6GHz帯を用いる超広帯域(UWB)通信で構成される(図表1)。

図表1 主な医療ヘルスケア関連BAN標準規格

標準規格 標準化団体 備考
Bluetooh Low Energy(BLE) Bluetooth SIG BANではないが現在最も普及
IEEE 802.15.6 IEEE 2012年2月に標準規格化
IEEE 802.15.4j IEEE 米国におけるM-Band 向け15.4規格
IEEE 802.15.4.n IEEE 中国における医療周波数帯無線規格
SmartBAN ETSI 欧州発の医療ヘルスケア向けBAN規格

出典:広島市立大学資料を基に作成

人体周辺の通信には、Bluetooth Low Energy(BLE)やWi-Fiも使われているが、これらの無線規格と比べたIEEE802.15.6の優位性について、自身も標準化作業に携わった情報通信研究機構(NICT)ネットワーク研究所 レジリエントICT研究センター サステナブルICTシステム研究室 室長の滝沢賢一氏は次のように説明する。

「IEEE802.15.6は、心電図など連続した波形データ伝送への活用を前提として設計しているため、伝送中に生じるビット誤りに対する高い耐性機能を備える。BLEと同程度の低消費電力でありながら、高い信頼性を確保している」

情報通信研究機構 ネットワーク研究所 レジリエントICT研究センター サステナブルICTシステム研究室 室長 滝沢賢一氏
情報通信研究機構 ネットワーク研究所 レジリエントICT研究センター
サステナブルICTシステム研究室 室長 滝沢賢一氏

BANは、身体内部を対象とする「インボディ通信」と身体表面(近傍)を対象とする「オンボディ通信」に大別される。埋め込み型のインプラントデバイスなどのインボディ通信は、医療分野に特化しているため、これまであまり目立たなかった。一方、オンボディ通信に使われるセンサーや無線モジュールはサイズなどの技術的な課題から研究レベルにとどまっていた。しかし、ここ数年のIoTの進展により、センサーやモジュールのサイズ問題は解決。高齢化の進行や健康意識への高まりを背景に、BANを医療やヘルスケアに活用する取り組みが加速している。

BANを活用することで、何が可能になるのか。ここから見ていくことにする。

月刊テレコミュニケーション2021年12月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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