有線LAN有線の見直しについては、「現状で十分、何もやることはない、ハードの更新と帯域だけ考えれば十分」という意見もあるとは思いますが、意外なところで効率化ができます。例えば、ループ対策。第1期、第2期の頃にネットワークを導入した多くの企業ではスパニングツリー(IEEE 802.1d, IEEE 802.1w)を使用したバックボーンを構築している例を多く見かけますが、近年では新しい選択肢も出てきました。
具体的にはLACP(IEEE 802.3ad)の利用も1つの例です。LACP自体は必ずしも冗長化を目的とした仕組みではありませんが、複数の物理回線を束ねることで、帯域の増加と同時に回線の冗長を実現しL2ループも防ぎます。可用性、柔軟性、帯域の増加を目指す場合にはEVPN-VxLANを利用したIP Fabricで構成することも視野に入れることができます。この構成を採用することで、SD-LANを実現することができるだけでなく、事実上の無停止を実現し、機器交換や拡張などもサービスを停止せず行えます。休日、夜間のメンテナンスによる運用負荷、コストの削減を実現し、工場のような停止を伴うメンテナンスウィンドウ確保が難しい状況下でも容易に機器の再起動などを実現します。
また、従来のL2のEthernetベースではなくL3のIPレベルで構成すれば不具合などが発生した際にもIPレベルの調査をすることが可能になるため、トラブルシューティングも容易になります。
無線LANと5G今後は無線LAN(Wi-Fi)の活用をさらに推進することが必要になると考えています。無線LANの技術は大きく進化しIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)では多くのデバイスが存在するエンタープライズ環境下での利用を考慮した仕様になりました。大部分の新型APやデバイスが対応しており、環境面の準備は整っています。
一方、5Gへの期待も高まっています。クライアント側の対応や導入の難しさが課題になりますが、採用は徐々に増えていくでしょう。
「無線LANと5Gどっちなの?」という問いかけもよくありますが、筆者はそれぞれの良い点を理解しつつ使い分けが必要になると考えています。
簡単にそれぞれの特徴をまとめると図表1のようになります。
図表1 5GとWi-Fiの比較
比較項目 | 5G | ローカル5G | Wi-Fi 6 |
最大速度 | 最大10Gbps 現在は4Gbps程度 将来は更に高速化 |
同左 | 9.6Gbps 現在は4Gbps程度 IEEE 802.11be(Wi-Fi 7)では46Gbpsの見込み |
免許 | 必要 | 同左 | 不要 |
電波調整 | 割当性 | 周辺事業者と調整が必要 | 不要、但し干渉が前提 |
周波数 | 3.7GHz/4.5GHz/28GHz | 4.5GHz/28GHz | 2.4GHz/5GHz |
到達距離 | 広い(~数 Km) | 同左 | 狭い(~数十 m) |
同時接続端末数 | 多い | 同左 | 少ない |
対応デバイス | 5G 対応が必要 | 同左 | 多数が対応済 |
互換性 | 互換性なし | 同左 | 下位互換あり |
認証 | APN/PW | 同左 | SSID IEEE 802.1x による ID/PW、証明書など多数 |
コスト | SIM ごとに課金、 比較的高価 |
基地局あたり数百万円 | 比較的安価 APは数万円程度 |
トラブルシュート | 事業者 | 不明 | 従来の Wi-Fi と同一 |
また、どちらにおいても大切なことは、これらはデバイスとの接続を行う最後の部分に過ぎず、その先には従来通りLAN、WAN、インターネットが存在するということです。どちらを採用したから必ず良くなるというものではなく、ネットワーク全体を考えることは変わりませんし、より重要になっています。
速度面においても、実際には無線の規格上のポテンシャルよりも基地局やAPの処理能力がネックになり、筆者の理解では4Gbps程度が限界です。本当に大きなデータを扱う、安定した帯域、通信が必要な場合には有線を使うことが必要であることはしばらく変わりません。