2030年代は“センサーの時代”になるかもしれない。6Gが普及し、社会全体がサイバー空間と融合する未来像を実現するには、地球上を覆うほどのセンシング能力が必要になる。
これを、対象物ごとにIoTセンサーを設置する手法だけで実現していくのは不可能だ。設置・管理、電源確保に手間とコストがかかりすぎる。
センサーなしでセンシングできたら─―。そんな無茶な願いを叶える技術も、6Gでは実現しそうだ。ネットワークにセンシング機能を持たせる“Network as s Sensor”である。
これは、通信用の電波をセンシング用途にも併用するコンセプトだ。電波や光を使ったリモートセンシング技術として赤外線やLiDAR等があるが、“データ通信も兼ねる”点でそれらとは異なる。携帯基地局やスマートフォンから発する電波で周辺の人・モノを検知できれば、センサー設置・管理の手間が省け、電源確保の悩みもなくなる。
テラヘルツ波がきっかけにリモートセンシングの仕組みは単純だ。対象物に電波やレーザー光を当て、その反射波で物体を識別する。短い波長を使うほど解像度が上がり、対象物の位置や形状、距離等を高精度に検出できる。
代表例が、自動運転車への搭載が始まっているLiDARだ。レーザー光を照射し、物体に跳ね返ってくるまでの時間を計測することで距離や方向を測定する。現在の運転支援システムではミリ波レーダーやカメラ映像によるセンシングが主流だが、レベル3を超える自動運転を実現するには、周辺の車両や歩行者・建物等の形状、位置関係を三次元で把握できるほどの精度を持つLiDARが不可欠と言われている。
LiDARで通信はできないが、6GでNetwork as s Sensorへの期待が高まっているのは、使用する周波数帯が、光に限りなく近いテラヘルツ波(100GHz~1THz)まで拡大するためだ。
これにより、通信用の電波で人やモノを高精度に検出する(図表)。NECの永井氏は「技術的には、普通の通信データを流しながら検知するという両立が可能。これまではセンサーを置いて、取得したデータを無線でクラウドに送るというワンクッションがあったが、無線そのものでセンシングできる」と解説する。
図表 無線信号で周辺状況を感知(Network as a Sensor)
LTE/5Gでは、2GHz帯以下の低い周波数で上りと下りの帯域を変えるFDDを、サブ6帯(3.5/4.5GHz)やミリ波帯(28/39GHz)で送受信の時間によって上り・下りを分けるTDDを用いている。このTDDの時間分割に、センシングを割り込ませるかたちになりそうだ。ノキアソリューションズ&ネットワークス CTOの柳橋達也氏は「現在の上り下りの時間帯に加えて、センシングのための時間帯も設けられるのではないか」と見る。