5Gへの期待は6Gに――5G時代、地域はどのようにデジタル化に取り組むべきでしょうか。
三友 私は総務省の地域情報化アドバイザーを務めており、その関係でいろいろな地方都市に伺いますが、5Gに対する「過度の期待」は地方でも強力という印象を持ちます。「5Gになれば、光がなくても、いろいろなことが実現できるようになる」という思い込みのようなものがあるのですね。
――地域の方は具体的にどんなことを実現したいと考えているのですか。
三友 今、地域の方が一番に思い付くのは、テレワークやサテライトオフィスなど、ICTを活用した働き方です。それによって、定住人口を増やそうと考えています。政府も非常に力を入れており、100億円の地方創生テレワーク交付金を創設して推進しています。地域の最大の課題は、人口減少ですから、何としても人を増やそうということですね。
ただ、地方へ移住する人を見つけるのは本当に大変なのが現実です。コロナ禍で東京都の人口は減っていますが、1都3県で見ると人口は増えているのですね。都心を離れるといっても、多くの人は例えば逗子や葉山あたりまで。本当の地方へ移住する人は少なく、その限られたパイをたくさんの地方で奪い合っているわけです。
――5Gやローカル5Gを活用した地方創生としては、製造業や農業など、様々な産業のデジタル変革も期待されています。
三友 工場などでは一定の成果を挙げるでしょうし、農場などでも効果が期待できると思います。ただ、地に足が着いた形で普及していくかはまた別の話です。
――確かに、今のところ5Gは「期待」にとどまっています。
三友 世界的に見ても、5Gのキラーアプリはまだありません。そうしたなか、当初5Gに期待していたことを、6Gに求める動きがあると感じています。特にヨーロッパではそうです。
6Gを積極的に推進している国の1つにフィンランドがあります。オウル大学を中心に研究開発プロジェクト「6G Flagship」を進めていますが、そこで言われていることの多くは、5Gで実現しようとしていたことなのですね。
モノがつながることが主体になるのが、4Gと5Gの違いのはずでした。ところが現状の5Gは、人を中心にした発想になってしまっていますよね。もう1段階後の6Gでそれを実現しようとしているように思えます。
地域情報化の最大の問題三友 もう1つ、6G Flagshipで特徴的なのは、「SDGsへの貢献のために6Gを使うんだ」と言っていることです。これは5Gにおいても同様で、例えばファーウェイは5GとSDGsに関する詳細なレポートを出しています。
SDGsへの貢献が「錦の御旗」になっているわけですが、翻って日本の地域情報化の議論を見ると、SDGsの話はほとんど出てきません。
しかし、地域情報化も実はSDGs貢献なのですね。地域情報化で得たノウハウをシームレスに国際展開していくスケーラビリティを実現できれば、日本の経験と強みを世界で活かせると考えています。
――地域情報化の成果を海外へ輸出するためのスキームを構築すべきということですね。大変魅力的な構想ですが、実現のためには何が必要ですか。
三友 今年2月、総務省が中心になって「デジタル海外展開プラットフォーム」が立ち上がり、その設立総会で私はこんなことを申し上げました。「地域情報化の様々な事業と、その国際展開の間を取り持つメディエーター(仲介者)となる機関が必要ではないか」と。
私は2018年にフィンランドに1年間滞在しました。人口550万人ほどのフィンランドの企業が、なぜ国際展開できているかというと、スタートアップや中小企業を支援する「ビジネスフィンランド」という機関がしっかりあるのですね。
日本の地域情報化事業の最大の問題は、国の補助が終わると、地域の中だけで「良かったですね。成功しましたね」と言って終わってしまい、そこでの知見が他の地域に活かされないケースが多いことです。こんなことをいくら続けても、日本はハッピーになりません。地域の中だけで情報化を進めても、得られるものは限られているのです。
地域情報化を国際展開のためのテストベッド、実験台として捉える発想がないと、単にどこかの地域という“点”の情報化で終わってしまいます。世界の課題解決に活用していく発想が必要です。