今、工場や建設現場、病院、エンターテインメント、観光など、様々な業界でローカル5Gの導入が盛んに検討、実行されている。最近ではオフィス内に導入する企業も出てきた。
今後、デジタルトランスフォーメーション(DX)やリモート化がいっそう進む中で、ローカル5Gの需要はますます高まることが予想される。JEITAが2019年12月に発表した5Gの世界需要額見通しによれば、国内ローカル5G市場は2025年には3000億円、2030年までに1.3兆円に拡大するという。
しかし通信関連の知見を持たない企業がいきなりローカル5Gを構築するのは非常に難しく、既に導入した企業からは、「自分たちだけではどうすればいいか分からなかった」「機器選定や免許申請の段階から非常に難しかった」といった声が聞こえた。
こうしたハードルを自力でクリアするのは現実的ではなく、深い専門知識を持つ企業に頼るしかない。そこで無線通信技術に強みを持つ様々な企業が、ローカル5Gの導入から運用保守までを支援するサービスやソリューションを提供し始めている。
低廉化が待たれる細かいメニュー構成や提供の順番は各社によって異なるが、ローカル5G支援サービスは、大まかに図表1のような流れになっている。
図表1 ローカル5G導入~運用保守サービスのイメージ(画像クリックで拡大)
まずはユーザー企業からローカル5Gの導入目的などをヒアリングし、利用する周波数帯をはじめとする要件を決める。次に、その要件に合わせて機器ベンダーやSIMを選定する。黎明期は「各メーカーともきちんとした商用の機材が出ておらずプロトタイプであったりして、機器の選定や調達に苦労した」(NTTコミュニケーションズ プラットフォームサービス本部 データプラットフォームサービス部 サービスクリエーション部門第四グループ 担当課長の鵜澤達也氏)というが、現在は商用の機器も増えつつあるという。
とはいえ未だ各種端末の値段は高く、これがローカル5G導入の大きなハードルの1つとなっている。
「モノの値段が下がりきっていないので、まだ得られる効果に対して投資コストの方が大きい。今後、ローカル5Gの普及に伴って価格が下がっていくだろう」(鵜澤氏)
OKI ソリューションシステム事業本部 エグゼクティブ スペシャリストの佐々木玲氏は、今後の市場展開について次のように見る。
「2021年から商用フェーズに入ってくると思うが、様々なところで言われているように、コストが課題になっている認識だ。キャリアの5Gがもっと広く普及し、様々な基地局やシステムなどが大量に世の中に出てきて、全体のコストが下がらないとローカル5Gも低廉化しないだろう。そうしたことから、ローカル5Gは2022年以降に本格拡大すると見ている。キャリアの5Gも前倒しで進んでいるので、うまくいけば全体としても前倒しになる可能性もあるかもしれないが、基本的には22年以降だろう」(図表2)
図表2 ローカル5Gの市場展開(画像クリックで拡大)
一部の機器では低廉化の兆しが見え始めている。エイビットが提供する4.7GHz帯・SA構成のローカル5G検証機「AU-500」は、基地局が600万円ほどでサーバー(5Gコア)込みで900万円、評価端末が150万円程度、セットで980万円の低価格を実現した。ここまで低価格にできたのは、機能をスマートファクトリー向けに絞り込んだからだ。
「スマート工場を実現したい企業などにヒアリングすると低遅延を重視するところが多かった。そこで遅延は10msec以下に抑えた」という。これが好評だといい、「総務省のローカル5Gの実験試験局免許の8割ほどがエイビットの顧客」とエイビット 執行役員 5Gビジネスユニット長 工学博士の池田博樹氏は話す。エイビットはローカル5Gの検証機セットだけでなく、実証実験や免許申請のサポート、5G機器開発の受託やローカル5G機器のカスタマイズにも対応している。
図表3 ローカル5Gの要件
機器が決まった後は現地での電波伝搬測定やエリア設計を行い、免許申請に入る。免許取得支援では、総務省の通信総合局(総通局)への実験計画書作成・提出、他事業者との干渉調整、免許申請書類の作成・提出、総通局との内容調整などを代行してくれる(図表4)。
図表4 (参考)無線局免許申請手続きのフロー概要(画像クリックで拡大)
後は現地で基地局設置工事や試験をし、保守運用フェーズに入る。各社24時間365日の問い合わせ窓口の設置や、遠隔からの監視やソフトウェアアップデートなどのサービスを用意している。