通信事業者を中心に検証が進むMECの早期実現手段にもエヌビディアが昨年末に発表したNVIDIA Aerial(エアリアル)は、同社GPUを搭載したCOTSサーバーで5G vRANを実現するためのSDK(ソフトウェア開発キット)だ。
AerialのコアとなるのがcuVNFとcuBBの2つのコンポーネントだ。cuVNFは5Gの入出力やパケット処理、cuBBは5G NRのPHY層の高速化を実現するためのライブラリーを中心としたフレームワークである。これを活用して、通信ベンダーや通信事業者自身が開発したコンポーネントと組み合わせて独自の5G vRANを開発するといった使い方も可能だ。
ソフトバンクは10月に、5G vRANの技術検証結果を発表したが、検証設備の構築にはAerialを用いた。GPUを活用した5G vRANに「5Gの通信性能を十分に発揮する上で求められる短い処理時間を満たすとともに、消費電力を抑えることができた」と性能面で高い評価を下したことをプレスリリースで述べている。
また、将来的に「基地局設備にMECを融合させることで、競争力の高いエッジコンピューティングサービスを展開できる手段となり得る」と野田氏は説明する。Aerialの活用先となるプラットフォームの1つであるNVIDIA EGXは、さまざまなエッジAIアプリケーションにも利用される。これにより、5G vRANで使われているGPU搭載サーバー(COTS)上で、MECサービスも展開できる可能性が生じるのである。「通信事業者がプラットフォームを整備してサードパーティにMECサービスの場として開放したり、ローカル5G用の基地局と画像解析などのアプリケーションを組み合わせて展開するといった取り組みも容易になり、実際にそのような要望も多い」。
ところで、vRANの実現技術としてすでに利用されている技術にFPGA(Field Programmable Gate Array)によるアクセラレーションがあるが、野田氏は「GPUがコスト面と性能の両面で有利になるケースが多くなる」と見る。
信号処理の演算効率の高さに加えて、MECサービスの提供に必要となる5GC機能の一部やMECアプリをGPU搭載サーバー上で効率的に実現できることがその理由の1つだ。
GPUを用いた5G vRANの展開を加速させる手立てとして、エヌビディアが10月に提供を発表したのが「NVIDIA Aerial Developer Kit」。機器ベンダーや5G関連のデベロッパーが、GPUを用いた5G vRANの性能検証を手軽に行えるようにするテスト環境だ。
「まずキットでGPUベースのvRANに馴染んでいただき、本格的な製品展開につなげてもらえればと考えている」と野田氏。現在、アーリーインタレストプログラムで提供されており、特設サイトに登録することで提供時期や価格等の情報を入手できる。
GPU 5G vRANの検証に利用できる「NVIDIA Aerial Developer Kit」。エヌビディアのGPUやSmart NICを搭載したCOTSサーバー2台とAerial SDK、試験環境などがセットで提供される。下記のURLでアーリーインタレストプログラムに登録することで、価格や提供時期などの情報が得られる。https://developer.nvidia.com/nvidia-aerial-devkit
ネットワーク関連処理をCPUからDPUへオフロードエヌビディアは10月にもう1つ、5Gの展開を加速させる可能性を持つ新製品を発表している。2020年初旬に買収を完了したメラノックス社が展開してきた新タイプのプロセシングユニットであるDPU(Data Processing Unit)の最新版「BlueField-2ファミリー」だ。
メラノックスはNICにネットワーク制御等の機能を搭載した「Smart NIC」を主力製品の1つとして展開してきた。Aerialで用いられるEGXサーバーなどのGPUプラットフォームにもSmart NIC「ConnectX-6」が搭載されており、厳密な時刻同期によりパケットロスを回避するなどO-RAN準拠のvRANの実現に重要な役割を果たしている。
エヌビディアが2021年に提供を始める「BlueField-2」は、このConnectX-6にARMコア等を搭載し、さらに高度な機能を実現できるようにしたものだ。
DPUのユースケースとして注目されるのが、CPUが行っているネットワークやストレージの仮想化の管理の機能をDPUに委ねるSDI(Software-Defined Infrastructure)オフロードである。
図表 NVIDIA DPUのロードマップ
「データセンターのCPU処理能力の30%程が仮想ネットワーク管理などに費やされている。これをDPUに委ねることでCPUの能力を仮想マシン、コンテナなどのワークロードそのものの処理に振り向けられ、データセンター全体の演算効率を大きく向上させられる」(野田氏)という。5GCの仮想化やAI学習及び推論処理を担うデータセンターの処理能力が底上げされれば、5Gのネットワーク整備コストの削減にもつながるはずだ。
同じく2021年に提供が開始される「BlueField-2X」は、BlueField-2にGPUを統合し、よりリアルタイムなAIアプリケーションへの対応を可能にするものだ。すでに大手のコンピューター/通信機器ベンダーがGPU、DPU、CPUを搭載したサーバーを導入する意向を表明している。
Smart NICにARMコア(CPU)とGPUを搭載したDPU「BlueField-2X」。GPUの活用によりAIベースのインラインでのラインレートのセキュリティ機能の実装などが可能になる
エヌビディアでは2022年投入予定の「BlueField-3/3X」でDPUの処理能力をさらに高め、2023年にはARMコアとGPUを統合したBlueField-4を投入する計画だ。また、こうした世代をまたがるDPUで共通に使える開発環境としてDOCA(Data-Center-Infrastructure-on-a-Chip Architecture)というオープンな開発環境を提供、DPUの用途開拓を進めていく考えだ。
「GPUの用途拡大のために2006年に提供を開始したCUDAと同様、DOCAのエコシステムを通信業界のデベロッパーの皆様と形成し、5Gシステムのオープン化、そして高度化に貢献していきたい」と野田氏は意欲を見せる。
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