東京・五反田にオフィスを構える株式会社ニット。400名以上のスタッフが在籍するが、取材時にオフィスにいたのはわずか2、3名だ。
十数名の社員の半数と400名超の業務委託スタッフ全員がフルリモートワーカーだからである。
ニットには、特定の住まいを持たずに国内外を移動しながら働く“アドレスホッパー”の社員もいれば、エルサレム在住の社員もいる。業務委託スタッフの居住地も日本全国にとどまらず、海外33カ国に広がっている。
フルリモートワーカーではない同社社員の小澤美佳氏も、オフィスに出社するのは週2回ほどに過ぎない。しかも、これは東京にいるときの話だ。「旅好きなので、2カ月に1回は1~2週間ほど海外に行く」。旅先で働く“ワーケーション”を行うことも度々だという。
ニット 営業/広報/人事 小澤美佳氏
新型コロナウイルスの影響で今、多くの企業がリモートワークを強いられている。生産性の低下を実感しながらも、感染拡大防止のためには「致し方ない」とこの状況を受け入れている経営者も多いことだろう。
しかし、コロナ危機がいつ収束するかは分からない。また、今後さらに進展する少子高齢化のことを考えれば、コロナ危機が去った後もリモートワークの推進は不可避である。
リモートワークで成果を出せない組織が生き残るのは難しい時代に突入したと言えるが、「フルリモートワーク型組織」であるニットの場合、どのように業務を回しているのだろうか。
性善説で成果重視ニットは、クライアント企業から業務の一部を請け負うアウトソーサー事業を展開している。「例えば、PowerPoint資料の作成やサイトのアクセス解析、翻訳、リサーチ業務など、自社の社員がやらなくてもいい仕事、いわゆる“ノンコア業務”を請け負っている。最近多いのは、企業のSNSの情報発信の依頼だ」と小澤氏は説明する。
アウトソーサー事業に加えて、ニットでは自社でのリモートワークの経験を活かしたセミナーやコンサルティングなども行っているが、一番多いのは「さぼる人がいるのでは?」という相談だ。
小澤氏は次の2つを実現できなければ、「どうしてもさぼる人は一定割合で生まれてしまう」と指摘する。
1つめは、性善説に立った信頼関係づくりだ。言い換えると、この組織の一員として力を発揮したい、貢献したいと自ずと思える組織づくりである。こうした信頼関係づくりは、別々の場所で働くリモートワークの場合、一層難しくなる。
2つめは、プロセス重視から成果重視のマネジメントへの転換だ。成果の出ない人は評価しないのであれば、「さぼる人がいるのでは?」と心配すること自体の必要性がなくなる。