――まず、5Gが企業やビジネスに与える変化について教えてください。
クロサカ 5G以降が4Gまでと違うのは、“ユーザー企業主導”のネットワークになっていくということです。
4Gまでの世界では、通信事業者が設備投資計画を立て、全ての責任を負う形で通信インフラを自らのアセットとして保有し、それを事業機会として提供していました。つまり通信事業者が提供している性能の範囲内でしか、ユーザー企業は事業を展開できなかったのです。
ところが通信産業の外側にいるユーザー企業は当然、通信事業者や通信産業が想定していないニーズを持っています。例えばOTTのSVODサービスなら、「うちは8KのSVODをタダで配信したいんだけど、なぜ通信事業者のインフラは対応してくれないのか」という不満が必ずある。
そういったユーザー企業側のニーズを受け止めないと、5Gではあらゆる局面でビジネスが成立しなくなると思います。
逆に言えば、ユーザー企業にもっと声を上げていただかないと、5Gの新しいパラダイムは実現しません。
――ユーザー企業が声を上げるというのは、具体的にどういうことでしょうか。
クロサカ 通信事業者としては、5Gへの投資インセンティブは4Gよりも持ちにくいんですね。彼らは民間の営利事業者なので、投資とその回収の算段が付かないと新しく5G事業を始めていくインセンティブ、“やる気”が出てこないのだと思います。しかしこれは彼らMNOの目線になってみると当たり前のことです。
4Gのエコシステムや産業構造は非常によくできているし、スマホに完結している世界であればエンドユーザーも4Gで十分満足している。それなのに「なぜ5Gが必要なのか」というのが通信事業者の本音だと思います。
そこに「5Gがないと我々は次のパラダイムに行けない。ユーザーに対してより高い便益が提供できない」と言えるのは、ユーザー企業なのです。
ですから、ユーザー企業の方々には、何が欲しいかということを言語化していただきたい。こういう事業機会があって、キャリアともレベニューシェアや新しいビジネスモデルで協業できるということを提案・発信することが、5Gのビジネスを作っていく上で最も重要なことだと思っています。
――ユーザー企業にとっては、5G時代は通信事業者とパートナーシップを結んで一緒に事業を作っていく必要性が増すということですね。
クロサカ ただ、すごくラディカルに考えると、部分的には競合にさえなっていくと思います。
5Gでは、特にコアネットワーク周りで仮想化が非常に進んでおり、誰でもコアネットワークオペレーターになれるわけです。またMEC(Mobile Edge Computing)の動きも、通信事業者だけにとどまらない。
するとネットワークのデザインで、例えば「うちは、スピードは捨てるけれど、遅延については1ms未満を目指す」みたいなユーザー企業が出てきてもいい。その時にキャリアはキャリアでコアネットワークを持っているわけですから、場合によっては競合してくる可能性もあります。