従来はオンプレミス環境で運用していた業務システム等を、パブリッククラウドのIaaSへ移行する企業が増えている。この場合、ハイブリッドクラウド環境を実現するためにパブリッククラウドの仮想プライベート空間をオンプレミス環境と接続する方法は大きく2種類に分かれる(図表1)。
図表1 インターネットVPNと閉域接続
1つが、インターネットを経由してIPsec/SSL-VPNでセキュリティを確保する「インターネットVPN」。もう1つが、インターネットを経由せずに、通信事業者やデータセンター事業者の設備のみを経由してアクセスする閉域ネットワーク接続(以下、閉域接続)だ。
このクラウドとオンプレミスをつなぐネットワークをどのように設計するかによって、クラウド利用の快適性や安定性は大きく左右される。以下、インターネットVPNと閉域接続のメリット/デメリットを整理していこう。
インターネットVPNは、オンプレミス環境の物理ルーターと、クラウド事業者が提供する仮想ゲートウェイ機能との間をVPNトンネルで結ぶ。AWSはVirtual Private Gateway、Microsoft AzureにおいてはVPN Gateway、GCPではCloud VPNと、各クラウドサービスでVPN接続するための仮想ゲートウェイ機能が提供されている。それぞれ帯域や接続数の上限、通信量やリソースに応じた料金・課金方法が異なる。
例えばAzureでは、帯域上限を100Mbps/650Mbps/1Gbps/1.2Gbps/5Gbps/10Gbpsから選択でき、接続数上限も10または30が選べる。通信量に応じた月額料金は、最初の5GBまでが無料で、10TBまでが1GB当たり9.744円などと設定されている(すべて2019年12月16日時点。以下同じ)。
2種類ある閉域接続の構成閉域接続は、エクイニクスやアット東京が運営する相互接続データセンター内のダイレクト接続ポイントにおいて、ユーザー企業の設備または通信事業者等のパートナーの設備をクラウドと直接つなぐ。図表2がそのイメージだ。
この接続形態にも2つのパターンがある。
1つが、ユーザー企業が相互接続データセンターにルーターを持ち込み、クラウドに直結する「専用接続」(図表2の上側)だ。
この形態では、クラウド事業者が設定する接続帯域(図表2のDirect Connect – ルーター間。AWSの場合は1Gbpsまたは10Gbps)を占有できる。料金と課金方法はクラウド事業者によって異なり、例えばAWSの場合は、ポート料金として時間当たりの料金とデータ転送料がかかる。
図表2 閉域接続のイメージ(AWSの場合)[画像をクリックで拡大]
もう1つが、通信事業者やデータセンター事業者等のパートナー(AWS Direct Connectパートナー等)を経由する「論理接続」である。パートナーのルーターとクラウドが直接つながり、その帯域を複数ユーザーに対して論理的に分けて提供する。
専用接続はAWSやGCP等で、論理接続はAzureも含めたより多くのクラウドで利用可能だ。
論理接続のメリットは、専用接続のように自前でルーターの準備や運用を行う必要がないことだ。また、専用接続に比べて接続帯域のメニューが豊富なため、用途に応じて柔軟に選択することができる。トラフィック量の増減にも対応しやすい。ユーザーは、図表2のDirect Connect – ルーター間の接続帯域を50Mbps~10Gbpsの間で選ぶことができる。こちらも、帯域に応じた接続料金とデータ転送量に応じた料金がかかる。
通信事業者は、IP-VPNや広域イーサネット等のWANサービスのオプションとして、この論理接続を利用した閉域接続サービスを提供している。NTTコミュニケーションズの「Arcstar Universal One」や、KDDIの「KDDI Wide Area Virtual Switch2」、ソフトバンクの「Smart VPN」などだ。
また、NTT東日本もフレッツ光ネクスト、フレッツVPN経由でAWS等のクラウドに閉域接続できる「クラウドゲートウェイ」サービスを提供している。既存のWANやアクセス回線を変更することなく、容易に閉域接続が利用できる。