「IoTを導入しない企業は5年以内にマーケットから脱落するだろう」。ボーダフォンが4月に発表した「IoT普及状況調査レポート」によると、世界の企業の74%がこう考えていることが分かった。同レポートは、世界の様々な業界・事業規模の企業1758社を対象に、IoTの導入率やIoTに対する意識などを調査したもので、2013年から始めて今年で6回目になる。
「国際的には『IoTなしでは競合他社と戦っていけない』という心理に変わってきている。この調査結果を、日本企業がどうやって世界の市場で戦っていくかを考える1つの指標にしてほしい」とボーダフォン・グローバル・エンタープライズ・ジャパン ジャパンIoTカントリーマネージャーの阿久津茂郎氏は語る。
同レポートによると、IoTの導入率はグローバルで34%、アジア太平洋地域に絞ると43%だった。後者の割合の大きさは中国やインドの積極的なIoT導入によるもので、「IoTの導入率について日本だけ切り取った数字があるならば、もっと低い数字になるだろう」と阿久津氏は危機感を募らせる。
ボーダフォン・グローバル・エンタープライズ・ジャパン
ジャパンIoTカントリーマネージャー 阿久津茂郎氏
「今すぐIoTをやるべき」日本企業にとってまず参考になるのは、「IoT洗練度指数」と費用対効果の関係だ。
IoT洗練度指数とは、今回の調査から採用したボーダフォン独自の指標。単なる導入率だけでなく、事業や経営とIoTがどれほど関わっているかという、導入の質を算出したものだ。縦軸に各企業の経営戦略におけるIoTへの依存度、横軸にIoTプロジェクトの展開の度合いを取り、右上に行くほど洗練度が高く、洗練度が最も高い企業をバンドA、IoT未導入の企業をバンドEとして5段階で評価している(図表)。
図表 IoT洗練度指数
この指数を用いて分析した結果、IoTに投資して大きな収益を得たと回答した企業はバンドAでは87%、バンドDでは17%となり、IoTへの投資が大きいほど得られる費用対効果も大きいことが分かった。IoT導入による費用削減効果についてもバンドAの企業ほど大きく、バンドDに行くほど小さいことが分かった。「日本企業はPoCなど小規模な導入から始めることが多いが、それでは費用対効果は小さい。IoTの活用範囲を広げていくことで大きな効果が得られる」(阿久津氏)。
こうした結果を踏まえて阿久津氏は「日本企業は今すぐIoTをやるべきだ」と強調する。では、IoT事業を成功させるためにはどうすればよいのか。同氏はそのポイントについて、既製品を使うこと、通信規格を使い分けること、必要な専門知識を得ること、セキュリティを取り入れることの4つを挙げる。
既製品とは、IoTがビルトインされた製品・サービスやIoTコンポーネントなどを指す。導入企業の92%はこれらを購入・利用し、工場など企業内部にIoTを導入しているという。しかし顧客向けの製品やサービスを開発する場合には、既製品の使用率は60%に下がる。競合他社との差別化領域については、独自に開発・カスタマイズしたものを使用する傾向があるようだ。
通信規格の使い分けについては、前述の洗練度指数と相関関係がある。バンドAの企業は平均3つ、バンドDの企業は平均1.8の通信規格を使い分けており、洗練度が高い企業ほど、多くの通信規格を使い分けているというのだ。また、導入企業の25%、バンドAの51%がLTE-M(Cat-M1)およびNB-IoTを含む低電力広域ネットワーク(LPWA)を利用している。さらに導入企業の52%が5Gの利用を検討しているという。
3つめの必要な専門知識を得ることについては、IoT専任チームの設置や外部の専門企業の利用が必要になる。IoT導入企業の60%は「現在IoT専任チームがある」と回答し、91%が「将来的には専任チームを作る」と回答している。また、53%が現在IoTの専門知識のためにサードパーティベンダーを利用しており、81%が将来サードパーティを利用する予定だという。
最後のセキュリティを取り入れることについては、「IoTとセキュリティ対策を同時に動かすことを考える必要がある」と阿久津氏は指摘する。IoT導入企業の84%が「セキュリティには取り組むべきであり、イノベーションを阻む理由にはならない」と回答している。つまりセキュリティ対策を固めた後にIoT事業をする、もしくはセキュリティを気にしてIoT事業をしないのではなく、IoT事業の展開とセキュリティ対策を同時にする必要があるということだ。
セキュリティ対策として採られている手段を調査したところ、IoT専任チームなど「今いるスタッフをトレーニングする」が46%と最も高く、他にもIoTセキュリティの専門家の採用や、セキュリティプロバイダーや外部のサードパーティベンダーと協力するといった回答があった。