人手不足が深刻だ。帝国データバンクによれば、従業員の離職や採用難等に起因する「人手不足倒産」は、2018年上半期に70件発生した。2013年の調査開始以来、最多のペースだという。
人手不足に対応するため、多くの企業が生産性向上に取り組んでいる。そこで現在、企業での採用が加速しているのが「屋内位置情報システム」だ。
現状の課題を発見し、改善するには、まず「見える化」が欠かせない。そのため、ヒトやモノの位置を把握し、生産性向上につなげようとする企業が増加しているのである。
矢野経済研究所によれば、RFID、Wi-Fi、BLE(Bluetooth Low Energy)、UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)、IMES(Indoor Messaging System)等の様々な測位技術を用いた屋内位置情報システム市場は拡大を続けている(図表1)。
2017年の市場規模は21億5000万円の見込みであり、2022年には3倍以上の78億5000万円に成長する予想だ。矢野経済研究所は市場を未だ黎明期であると評価している。
市場の過半数を占めており、特に導入が進んでいるのが製造業だ。ヒトやモノの位置をリアルタイムに可視化することで、生産プロセスなどを改善し、効率化につなげる取り組みが盛んに行われている。
図表1 国内の屋内位置情報システム市場規模推移と予測
誤差15cmの高精度測位数ある製造業向けソリューションの中でも精度の高さを強みとしているのが、英ユビセンスの「リアルタイム位置情報システム(Ubisense RTLS)」である。15㎝程度の誤差で測位でき、業界内でも非常に高精度と評判の高いソリューションだ。
高精度を実現できる理由の1つは、8.5~9.5GHz帯のUWB電波にある。この帯域の電波は2.4GHz帯や5GHz帯を用いるWi-Fiなどの電波よりも直進性が高く、障害物に弱い。
しかし、測位においては「反射波」の影響を最小限にし、高精度につながるというメリットがある(図表2)。
そもそも測位においては、タグ等から発信された電波のうち、図表2の右上に示したオレンジ色の電波のように、センサーまで直進する電波のみを測位に使うのが理想だ。反射した電波だと、反射先の座標が電波の発信元であると誤って計算してしまう怖れがあるからである。
精度を向上するためには、直接波と反射波を区別する必要があるが、「例えば、BLEなどで用いられる2.4GHz帯の電波の場合、直接波と反射波が重なると、物理的に区別することが難しい」とユビセンス・ジャパン RTLSビジネスユニットマネージャーの本多紀夫氏は解説する。
一方、8.5GHz~9.5GHz帯のUWB信号であれば、図表2の右下のように、短いパルス信号が生じる。このパルス信号により、一番早くたどり着いた電波が直接波と判断でき、反射波を分離することができるのだ。
図表2 UWBによる直接波と反射波の区別
2つの測位方式を併用これに加えて、Ubisense RTLSは測位方法も工夫して精度を高めている。具体的には、2台以上の受信機(センサー)でタグから発信する電波を捉えられるように、10~30m間隔でセンサーを設置。各センサーは電波の到達角度から位置を算出する。 さらに、Ethernetで接続されている各センサーが互いの受信した時刻を同期して、受信したタイミングの差によっても位置を計算する。これらにより誤差の少ない測位が可能にしているのだ。
こうして高精度の測位を実現するUbisense RTLSは自動車工場などで活躍している。例えば、電動トルクでボルトを締め付ける際の回転数の設定などは車体によって異なる。そのため従来は車体に取り付けたバーコードを読み取る作業が必要になっていた。しかし、ある自動車工場では、車体と電動トルクの位置情報を追跡し、車体に近付いた電動トルクを検出。回転数などの設定を電動トルクに自動送信することで、人手によるバーコードスキャン作業を不要にした。「自動車の生産ラインでは、車体間隔は1mくらいになるため、高い精度が必要になる」(本多氏)。