[特集]働き方改革×デジタルの新・教科書(4)コクヨ ワークスタイル研究所長が語る「未来のオフィス」

オフィス家具大手のコクヨ社内には、「ワークスタイル研究所」という組織がある。1987年に立ち上げられた「オフィス研究所」を前身とし、30年にわたってオフィスのあり方と働き方の研究を続けてきた同研究所は、これからのオフィスの役割をどう考えているのか。所長を務める若原強氏に聞いた。

――オフィスの作り方はどのように変わっていくと考えていますか。

若原 オフィスとワーカー(働く人)との間に発生する「遠心力」と「求心力」のバランスを取ることが大事になります。

遠心力というのは、カフェや自宅、コワーキングスペースなど、どこでも働けるようになっていくこと。外に出て働くというトレンドはもう止められません。

ただし、それを放っておいていいとは思いません。やはり、たまには顔を合わせてコミュニケーションをし、知識や情報を共有する場面の重要性は、どれほどリモートワークが発達しても残ります。オフィスはそのための場として残っていくべきです。

放っておくと遠心力だけがどんどん働くので、何らかの求心力を発生させてワーカーを呼び戻す必要があります。

――ルールを作る、メリットを感じさせるといったやり方ですか。

若原 どこでも働いていいと言いながら、例えば「月曜は必ず出社」といったルールで縛るのは本末転倒です。それよりも、オフィスに来ればメリットが得られる状況を作ることです。

例えばグーグルには、おいしい食事が無料で食べられる社食があります。そうすると、昼くらいは会社に行って、ついでにみんなと会話するという状況が自然に生まれるかもしれません。あるいは、トイレに設置したセンサーが排泄物をチェックして自動的に健康診断を行う技術がありますが、それを社食と合わせて導入すれば、「会社に行くと自然と健康になる」という求心力になり得ます。そのように、自発的に集まろうと思える機能や仕組みをオフィスに残していくことが求心力になります。

この遠心力と求心力をどうデザインするかが大事になるでしょう。

――「会社に来ると生産性が上がる」といったことも求心力になり得ますか。

若原 いえ。仕事がはかどる場所は、ワーカーごとに選べばいい。生産性という意味で、オフィスが最上の場所である必要はありません。

IoTで「オフィスの癖」を知る――では、ミーティングを行う場所としての機能を追求していくかたちでオフィスは変化していくと。

若原 働く場所が拡散していくと、オフィスの面積は相対的に小さくなっていきますが、単に今までのオフィスの縮小版にはならないと思っています。

これは私見ですが、オフィスには社食だけがあればいいとも考えています。お昼や夕方にはおいしい食事が振る舞われ、それが求心力となって人が集まる。他の時間は多目的に使えるスペースになる、大学の学食のようなイメージですね。それも将来のオフィスのあり方の1つではないでしょうか。

――AIやIoT技術はどう活用できますか。

若原 オフィスの運用管理の効率化と、ワーカーの利便性向上という2つの観点が考えられます。

前者については、例えばフリーアドレスのオフィスを作った後のモニタリングに有効です。オフィスは作って終わりではなく、継続的にチューニングしていく必要があります。それには、混雑しているスペース、使われていないスペースなどの濃淡がわからなければなりません。人の位置や動きを可視化するIoT技術は重宝されていくでしょう。

コクヨのオフィスも半分以上はフリーアドレスですが、スマホのWi-Fi電波で位置を測り、誰がどこで働いているのか、どこが混雑しがちかといったことがわかるようにしています。

――IoTで「オフィスの癖」を知ると。

若原 そうですね。データが積み上がれば、どこで働く癖があるのかといった情報も集約されます。

後者の観点については、オフィス内にセンサーを設置して、座った場所の空調や照度をパーソナライズするといった使い方があります。海外では数年前から、座った場所の空調・照度を入居者向けのスマホアプリでカスタマイズできる「スマートビル」が話題になっています。

こうした技術の活用は当社にとっても重要なテーマです。働くシーンのニーズや困り事を我々が拾い上げて、テクノロジーに長けたICTベンダーとともに解決策を出す。そうした取り組みを進めていきたいと考えています。

月刊テレコミュニケーション2018年4月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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