福岡市博多区を流れる博多川にほど近い場所に建つ宿泊施設「アンドホステル」は、ITベンチャーのand factory(本社・東京都渋谷区)がプロデュースして2016年8月にオープンした。
相部屋をメインとするホステル(簡易宿所)は、安価に泊まれるので外国人に人気の宿泊施設だ。
ただし、アンドホステルは料金以外の魅力も備える。最先端のIoT技術の利便性を体験できることだ。4部屋ある個室の“IoTルーム”には、スマートフォンアプリで操作できる鍵や照明のほか、部屋にいながらにして世界の風景が楽しめるデジタル窓、光や香りで快適な眠りに誘導する睡眠機など11種類のIoTデバイスが設置されている(図表1)。
図表1 アンドホステルに導入されているIoTデバイス
IoTデバイスの連携で新たな体験インバウンド(訪日外国人)の急増に伴い、宿泊施設は不足状態が続く。そこに商機があるとand factoryは考えた。スマートフォン事業に強みを持つand factoryの飯村洋平執行役員は「単純に宿泊施設を提供するだけでは面白くない。プラスαの価値としてIoTを加えていこうと考えた」と話す。
and factory 執行役員 飯村洋平氏
その思いの背景には、IoTに対する一般消費者の認知が不十分だという認識もあったという。産業界ではIoTへの関心が高まっている一方で、消費者がIoTの利便性を体験できる場所が少ないことがその理由だと同社は見ており、そうした状況では、IoTデバイスメーカーが消費者の声を製品の改善にフィードバックすることもままならない。
そこで、様々なIoTデバイスを1カ所で体験できるようにするとともに「生活者とIoTデバイスメーカーをつなぐ場所をつくろう」(飯村氏)と「スマートホステル」をコンセプトに事業を立ち上げたのだ。
宿泊施設にどんなIoTデバイスを採用するか。同社は生活者の視点を軸に検討を進めた。「IoTデバイスメーカーは製品や技術の凄さを前面に打ち出すのに対して、我々は、どういう体験ができるとユーザーが快適と感じるかを起点として宿泊客の行動シーンを設計した」と飯村氏は話す。そのシーンを設計する過程で、複数のIoTデバイスが連携して動くことが大切だと考えたという。
人は1つのシーンでいくつかの動作を連続的に行う。例えば、暗くなっている部屋に帰るというシーンでは、ドアのロックを解錠し、次に壁のスイッチを押して照明をつける。そうしたシーンでいくつものIoTデバイスを一つひとつ操作するのは不便だ。もし、1つの操作で複数のIoTデバイスが利用できるようになれば、消費者に新しい体験を提供できる。
そこで同社は、異なるメーカーが開発した複数のIoTデバイスが連携して動くIoTプラットフォームを構築しようと考えた。そのために、メーカーと交渉するのと併せて、IoTデバイスの利用データをメーカーにフィードバックすることにした。
これはメーカーにとって大きな魅力だ。生のニーズに基づいてデバイスを改善することができるからだ。
この提案に賛同したメーカー各社がデバイスのAPIに関する情報を提供。それを受けて同社は組込みソフトの権威である九州大学大学院の福田晃教授の監修のもと、IoTデバイスの横断的利用を可能にするIoTプラットフォーム「&IoT」を開発した。
様々なIoTデバイスを1つのアプリで操作可能にした「&IoT」アプリの画面
&IoTは、1つのアプリから複数のIoTデバイスを操作できるようにするとともに、宿泊客の利用シーンに合わせていくつものIoTデバイスを連動して動かす機能を持つ。