NTTPCコミュニケーションズ マーケティング技術責任者の小原英治氏は、NTTグループに30年近く勤務してきた。その間、INSやVI&P構想、マルチメディア基本構想、NTTレゾナント構想、ユビキタス、M2Mなどといった言葉が生まれてきたが、多少の違いはあっても基本的には似たような世界を目指してきた。これらの言葉はすべて、現在注目を浴びる「IoT」につながるもの。「やっと技術が追いつき、バズワードではなくなった」と小原氏は話す。
小原氏によると、IoTは5つのステップを踏んで進化していくという。①接続、②管理、③分析、④自動化、⑤創造――の5つだ。現在は、③分析のステップにあると小原氏は説明する。
「分析には、多変量分析とDeep Learning・AIによる分析の2種類がある。Deep Learning・AIによる分析までたどり着ければ、経営にインパクトを与えることができるが、まだそこまで至っていないと認識している。AIは未知数な部分が多いからだ。ただ、Deep Learning・AIがもっとうまく働くと、IoTが経営に貢献できるようになる。Deep Learning・AIはIoTの命運を握っていると言える」(小原氏)
様々な産業で導入されるIoT関連ソリューション次に小原氏はNTTPCコミュニケーションズのIoTに関する取組事例をいくつか紹介した。
例えば水道のスマートメーター。日本で水道メーターが生産されて約100年経つが、基本構造はまったく変わらずコモディティ化していた。NTTPCコミュニケーションズはそこにIoTの技術を取り入れてスマートメーター化することで、上下水道の使用時間や流量などのデータを収集し、遠隔検針を可能にして水道局員の派遣コストを削減させることを可能にした。
小原氏は、シカやイノシシ、イタチなどの有害鳥獣捕獲のための檻やワナをIoT化した事例も紹介した。檻やワナに鳥獣がかかり、金具が外れるとアラートメールを送信する仕組みだ。
「この事例のポイントは、単三乾電池4本でセンサーを2年間も動かせられること。センサーは金具が外れてメールを送信するとき以外はシャットダウンしているため、それが可能になる。ローテクを駆使した面白い事例だ」と小原氏は説明する。
また、最近では捕獲後の野生鳥獣を「ジビエ」として販売できるといったメリットもある。 有害鳥獣の農作物被害に悩む自治体は多く、年間の被害総額は200億円とも言われている。NTTPCコミュニケーションズのソリューションは、すでに40以上の自治体や林野庁、農協などにこのソリューションを提供しているという。
ネットワークカメラを用いた用水路の遠隔監視も行っている。用水路にカメラを設置して遠隔監視を行い、見回り作業を効率化させる。また、上流にある雨量計と連動させ、何時間後あるいは何分後にどのぐらいの水量となるのかを予測することもできるという。IoTの導入により、冠水被害を未然に防ぎ、高齢化する農業者をサポートすることが可能になる好事例だ。
このように、IoTを活用することで得られるメリットは大きいが、IoTならではの課題もある。セキュリティ対策はその1つだ。
IoTはVPNのないローカルエリアで利用される。センサーから発信されたデータは、A/Dコンバーターとネットワークノード、M2Mゲートウェイを経由してクラウドへと送られるが、その間にはショートや断線、なりすまし、改ざん、悪意のあるノードからのアタックなどといったリスクが存在する。例えば、従来であれば工場内でウイルスが混入する心配はほとんどなかったが、ネットワーク化が進むことでそれが起こる可能性が高くなるのだ。
「悪意があるかないかに関わらず、ワークすべきものがワークしないのはセキュリティインシデントとしてとらえるべきであり、NTTPCコミュニケーションズでもその対応策を考えている」と小原氏は説明する。
企業ネットワークの場合、ウイルス対策ソフトを搭載していないPCはまずないだろう。だが、IoTシステムでは、センサーにウイルス対策ソフトを搭載できるメモリも、それを処理できるCPUもない。「その処理を行えるのはIoTゲートウェイであり、インテリジェントなIoTゲートウェイが求められている」と小原氏は指摘する。