無線LAN製品の選定においては「最大通信速度」が重視される傾向にあるが、それ以上に「端末収容数(同時接続数)こそが重要」とメーカー、SIer/NIerは口を揃える。
これから主流となる無線LAN規格IEEE802.11acの最大通信速度は第1世代(Wave 1)で1.3Gbps、2015年中には理論値で最大6.9Gbpsの超高速通信が可能なWave 2 対応製品が市場に投入される予定だ。無線LANでも大容量データの送受信を不安なく行えるようになる。また、11acは複数の端末と同時に高速な通信を行える仕様が盛り込まれている点も特徴だ。
こうしたことから、1台の無線LAN APに多数の端末が同時にアクセスしてもパフォーマンスが著しく低下せず、安定した無線通信が行える能力が大切なのだ。
通信速度の進化を凌ぐ勢いでデバイスの数と、そこで消費されるトラフィック量は増加していく。数年先には、1人当たり4~5台の無線LAN端末を利用する時代が到来するとも予測されている。アプリケーションも今後ますます数と種類を増していくだろう。そのような将来も見越して無線LAN APを選定し、キャパシティを設計しなければならない。
端末収容数を増やす新技術
無線LAN APを提供するメーカー各社が現在フォーカスしているのが、この端末収容能力の向上だ。デバイスが密集する「高密度」な環境におけるパフォーマンスを高めるための技術開発が進んでいる。
この分野で「他社の一歩も二歩も先を行っている」と自信を見せるのが、シスコシステムズ・エンタープライズネットワーキング事業ユニファイドアクセス コンサルティング システムズ エンジニアの古川裕康氏だ。同社は、ハイエンド/ミッドレンジ向け無線LAN APに、高密度化に対応するための独自技術「Cisco High Density Experience(HDX)」を実装している。
Cisco HDXを搭載する11ac対応無線LAN AP「Cisco Aironet 2700/3700」 |
Cisco HDXは、複数の技術を合わせたテクノロジーセットの総称だが、中でも重要な技術が「ターボ パフォーマンス」と「ClientLink」の2つだと古川氏は話す。
ターボ パフォーマンスとは図表のように、無線AP本体のCPUとメモリの他に、2.4GHz/5GHz帯それぞれの処理を行うための専用CPUとメモリを積むもの。これにより、無線の帯域を無駄にせず高効率にパケットを伝送できるという。
図表 シスコ ターボパフォーマンス |
もう1つのClientLinkは、11ac標準のビームフォーミング(電波を特定の方向に集中的に発射する技術)を補完するシスコ独自の技術だ。11acでは、無線LAN APとクライアント間のデータ伝送を最適化するため、クライアント側から無線LAN APに対してフィードバックが行われる。これをより効率的に行うのがClientLinkで、ダウンリンクのパフォーマンスをさらに向上させることを狙ったものである。
アルバネットワークスも独自技術の実装によって、高密度化に対応している。同社の特許技術「Aruba ClientMatch」だ。
11acの能力を引き出すには、無線LAN端末と無線LAN APの距離が近いことが望ましいが、複数の無線LAN APが設置された中を端末が移動する際には、接続先の無線LAN APをうまく切り替えられずに、状態の悪い接続を引きずってしまう「スティッキー・クライアント」と呼ばれる問題が生じる。Aruba ClientMatchは、これを解決する技術だ。
無線LAN端末の状態を示すデータを継続的に収集し、その情報に基いて最も近い無線LAN APや最適なラジオにつなぎ変えるもので、これにより常に、最も近くて空いている無線LAN APに接続先を切り替えて最高のパフォーマンスを引き出すことができる。