クラウドPBXは止まらない――[第1回]企業の通信基盤の総取りへ通信キャリアが攻勢

通信キャリアがクラウドPBX、クラウドUCの販売に本腰を入れている。回線・ネットワーク、端末、IaaS/SaaSなど、企業ICTの大部分を手がける強みを活かし、企業のコミュニケーション基盤をすべて巻き取る戦略だ。

「回線は通信キャリア、交換機(PBX)はメーカー」――。この境界線が崩れようとしている。

仕掛けたのは通信キャリアだ。

PBX機能を月額利用型のサービスとして提供する「クラウドPBX」を販売し、PBX設備の更改時期を迎えた企業に対してリプレース提案を活発に行っている。さらに、ユニファイドコミュニケーション(UC)をサービスで提供する「クラウドUC」の販売にも注力している。UCをこれからの事業の軸に据えるPBXメーカーと真っ向からぶつかる形だ。

狙いは、企業コミュニケーション基盤の“総取り”にある。

通信キャリアは、音声回線、データネットワーク、モバイル端末、そしてIaaSやSaaSなどのクラウドサービスと、企業が必要とするICTサービスを幅広く揃えている。加えて、近年はクラウド事業を強化するため、従来は“弱点”とされていたソリューション提案とSI力にも磨きをかけている。こうした強みを活かしてPBXも巻き取り、企業コミュニケーション全体にサービス提供範囲を広げる戦略だ。

先行するNTTコムとKDDI

この動きが鮮明なのが、NTTコミュニケーションズ(以下、NTTコム)とKDDIの2社である。KDDIでUC提案を手掛ける、ソリューション推進本部パートナーソリューション部長の内田恵氏は「我々が目指すのは、音声、データ、ネットワーク、デバイスの全部取り。FMCとSI事業をやっているので、UCのビジネスも当然でてくる」と話す。NTTコムも、ほぼ同様のスタンスだ。

両社とも法人戦略の柱にクラウド事業を位置付け、今や音声回線・ネットワーク、端末だけでなく、企業ICT全般を広くビジネス領域にしている。数年前から、主に大企業に対して業務・情報システムのクラウド化を提案してきており、オンプレミス型システムからの移行を促すために、ソリューション提案力とSI力を強化してきた。

この2社と他のキャリアとの違いは、固定系の通信サービスを全国およびグローバルで提供すること、移動通信も手がけていることだ(NTTコムはMVNOで移動通信サービスを提供)。

NTTコムについて言えば、携帯キャリアではない点が逆に強みになる。スマートフォン向けのアプリやサービスを充実させており、どのキャリアの端末でも使えるマルチキャリアのサービスを提供できるのだ。自社携帯/スマートフォンにサービス提供先が限られる携帯キャリアよりも、むしろサービス展開の自由度は高い。

このような背景から、NTTコムとKDDIの2社が、いまだオンプレミス型がほとんどを占めるPBXのクラウド化に力を入れるのは当然と言える。

現在提供されているクラウドPBX/UCを図表1にまとめているが、実際にこの2社は先行している。NTTコムは2011年からクラウドUC サービス「Arcstar UCaaS」を提供。KDDIも、NTTドコモやソフトバンクがまだFMC(携帯電話を内線電話として利用する)に軸足を置いたサービス提供に留まっているのに対し、2012年6月からクラウドPBX「KDDI 仮想PBXサービス」の提供を始めた。

図表1 大手通信事業者が提供するクラウドPBXサービス[画像をクリックで拡大]
大手通信事業者が提供するクラウドPBXサービス

月刊テレコミュニケーション2014年12月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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