――WebRTCとは、どのような技術ですか。
小松 ひと言で説明すると、ブラウザでP2P(peer to peer)ができる技術です。音声・ビデオ通話、ファイル転送といったリアルタイム通信が、サーバーを経由せずに行えます。わかりやすい例では、テレビ電話や対戦ゲームがブラウザだけでレスポンスよくできるようになります。
大津谷 既存のWeb技術はサーバーとクライアント間のやり取りが基本でした。リクエストとレスポンスを繰り返してHTMLや画像を送受信しています。また、端末に付いているカメラやマイクのデータも扱えませんでした。
WebRTCで、これらがすべて変わります(図表1)。ブラウザ同士で直接通信し、データは流しっぱなしにしてリアルタイム通信ができます。カメラやマイクも使えます。また、プロトコル変換をすれば既存の電話(PSTNやSIP)との連携も可能です。
図表1 WebRTCとは? |
「WebRTCはキャリアにとっては破壊的な技術」
――リアルタイムコミュニケーション(RTC)サービスが、従来に比べて圧倒的に容易に扱えるようになるという点で注目が集まっているわけですね。
小松 P2Pは既存の技術ですが、それがブラウザ上で動くという点で、マーケットへの大きなインパクトがあると考えています。
良く似た例にGoogle マップがあります。画面上でスクロールできる地図アプリは以前から存在していましたが、あまり使われませんでした。しかし、ブラウザで手軽に使えるGoogleマップが登場すると、皆が一斉に飛びつきました。そこから、お店の情報を連携させたりといった新しい市場が一気に作られていきました。
技術的にはそれほど大きな差はないにも関わらず、ブラウザに載ると、とんでもないことが起こります。WebRTCでも同じようなことが起こるのではないかと期待しています。
P2P型のRTCとしてはSkypeのようなサービスが昔からありますが、どうしても利用者を選びます。アプリをダウンロードしてインストールして、IDを作れる人に限られてしまうのです。
ビデオチャットの利用シーンとして、離れて暮らすおじいちゃんと孫が顔を見ながら会話するというものがありますが、専用アプリでそれをやるにはかなり手厚いサポートが必要でしょう。それが、「ブラウザでアクセスしてくれるだけでテレビ電話ができる」となれば可能性は広がります(図表2)。
図表2 WebRTCで端末を選ばずにサービスが利用可能に |
――誰でも使いやすいサービスになりますね。
小松 「ビデオチャットが本当に流行るのか」という議論はありますが、もともとサービス自体に需要がないのか、それとも利用するまでの手間が障害になって使われないからなのか、これまでは確かめることができませんでした。WebRTCで障害が除かれて裾野が格段に広がれば、需要の有無を実際のマーケットで簡単に試すことができるようになるでしょう。
大津谷 RTCサービスの提供はこれまで、非常に参入障壁が高いものでした。かつては、通信キャリアのように多大な投資を行ってインフラを構築できる事業者だけが行えるものでした。近年はSkypeやLINEのようなサービスも普及していますが、それでも非常に高度な技術を持っている企業に限られます。
それが、JavaScriptを書けばブラウザ上でRTCサービスを作れるようになります。WebRTCは、RTCサービスを「民主化する」ものと捉えています。
我々キャリアにとっては破壊的な技術です。しかし、人類にとっては革新的で、市場拡大につながります。脅威ではありますが、早く手掛けることで新しいビジネスにつなげていきたいという考えで積極的に取り組んでいます。
――Web開発者が手軽にLINEやSkypeに似たサービスが提供できるようになれば大変です。
小松 この流れは止められません。民主化で新しいマーケットが創造されるならば、その中で新しいビジネスモデルを作っていく必要があります。