SIerたちのM2Mビジネスの実像[第2回]――“現場力”活かす富士アイティ

SIerがM2Mビジネスで成功するには、何が必要なのだろうか。不可欠といえるのは、既存事業の強みを活かすことと、他業種との連携の2つだ。ユーザー企業や他事業者との協業で新たなビジネスモデルを組み立てたSIer3社の取り組みを連続レポートする。第2回は、富士アイティのケースを紹介する。

富士電機グループの情報子会社である富士アイティは、産業プラント設備のデータ可視化や太陽光発電の遠隔監視等の分野でM2Mソリューションを提供している。産業現場向けのSIを中核事業としてきた同社の強みは、ITシステムの開発に留まらず、現場の情報を取得するセンサーや制御機器の取り付け、エンジニアリングまで手掛けてきたこと。一般的なSEとは異なる“現場力”がM2Mビジネスのベースとなっている。

開発事業部ソリューション開発部 部長の木幡和隆氏は「もともとエンベデッド技術を持ち、現場データをセンシングする仕事もしてきました。そこで生じた課題をM2Mで解決します。上流工程志向のM2Mと当社ではアプローチが違います」と話す。

同社の特徴は、自社開発したM2Mプラットフォームにもある。データの蓄積や上位アプリ向けのAPI提供といった一般的なM2M基盤の機能を持つ「クラウドプラットフォーム」と、M2Mデバイス内に組み込まれデータ収集や機器制御を司る「エンベデッドプラットフォーム」との二層で構成される。他のM2M基盤との違いを生み出すポイントは後者にある。

自社開発したM2M用コントローラ「FiTSAΣ」(下写真)はアドオン拡張が可能で、端末側にインテリジェントを持たせることができる。センサー等のデータを単純にクラウド側に上げるだけでなく、デバイス側で複数のデータを組み合わせてから送信したり、ネットワーク障害が発生した際には一時的にデータを蓄積して復旧後に送信するといったことが可能だ。業種別、顧客別に異なる要望に合わせて、端末側の機能や特性を変えることができるのだ。

アドオン拡張が可能なM2M用コントローラ「FiTSAΣ」
アドオン拡張が可能なM2M用コントローラ「FiTSAΣ」

1つの成果が次のニーズ生む

こうした仕組みを用いて富士アイティが最初に手がけたM2M事例が、2012年から始めた、駅構内のロッカー情報を一元管理する「ロッカー利用状況管理システム」だ。ロッカーメーカーおよび運営会社との協業によって、従来ビジネスに新たな付加価値を生み出した。

コインロッカーなび
富士アイティが協業連携している全国コインロッカー検索ポータル「コインロッカーなび」。東京駅などで採用されており、利用客が構内各所のロッカー利用状況をWebサイトで確認できる

駅等に置かれるロッカーは従来、メーカーが製品を納めた後に設置場所を表示案内するのにとどまっていた。そこにM2Mを適用することで、運営会社や駅職員、駅利用客にさまざまなメリットが生まれた。現在、同システムは東京駅や舞浜駅で使われており、写真のようにWebサイト「コインロッカーなび」で構内各所のロッカーの利用状況が閲覧可能だ。利用客はスマートフォン等から空いている場所をすぐに探し出せる。

また、駅職員が、空いているロッカーのことを駅利用客に尋ねられた場合も確実な案内ができるなど、業務効率改善やサービス貢献に寄与している。

現在は、他の駅への導入検討を進めているほか、ロッカー利用状況管理システムをベースに新しいニーズも出てきているという。「一度M2Mで仕組みができ、成果が生まれると、従来の発想を超えたサービスが見えてくる」と木幡氏。また、交通機関だけでなく「商業施設等への横展開も進めていきたい」と話す。

他分野への進出にも意欲的だ。有望市場と考えているのが、新エネルギー設備の遠隔監視や、ビルの集中管理システムだ。商業ビルやオフィスビルでは多様な機器設備が稼働しているが、現在はそれぞれの設備ごとに管理システムがあったり、人による監視・管理が行われている。それをビル内で1つに束ね、さらにクラウド上でビル管理会社等が複数拠点を一括監視できるM2M設備監視システムのニーズが高まるという。

また、この2月からは、自社で回線部分も提供できるようにするために、MVNOも開始した。顧客ごとに最適な通信料金プランが作れるほか、デバイス側の機能追加が必要な場合等に一時的に帯域を増やしてファームウェアを送り込むといったことも可能になる。デバイスから回線、プラットフォーム、アプリまで一括提供できる環境が整ったところで、新年度はM2M事業にさらに弾みをつけたい考えだ。

月刊テレコミュニケーション2014年3月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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