米国では大手金融機関などでも導入が始まっているBYOD――。それに対して日本企業はというと、野村総合研究所(NRI)のアンケート調査では、諸外国と比べて非常に消極的であることが判明している。業務にモビリティをいかに組み込んでいくかは今後、企業にとって一層重要になるが、大半の日本企業は海外企業より出遅れてしまっているのが現状だ。
ただし、城田氏は、闇雲にBYODを推奨しているわけではない。「BYODはもちろん今日のメインテーマであるが、企業としてはまず、企業全体のモバイル戦略を考えないといけない」と強調する。
「BYODとは端的に言えば、誰が端末を所有しているかの話。私物端末のほうが使い慣れているから、生産性が向上するということはもちろん言えるが、それはあくまで初期のトレーニングコストの問題だ。BYODの目的としてよく挙がる営業支援や生産性向上は、会社でタブレットやスマートフォンを支給しても、同じように実現できる」
BYODとは、自社のモバイル戦略を実行していくうえでの1つのオプションに過ぎない。「仮にBYODを導入する場合でも、まずはモバイル戦略の全体像を描いたうえで、そのなかでBYODについて考えないといけない」と城田氏は指摘する。
BYOD導入に向けた5つの検討ステップ
では、企業の担当者は、具体的にどのようにモバイル戦略やBYOD導入の検討を進めていけばいいのだろうか。城田氏は5つのステップに整理している。
BYODの検討ステップ |
最初のステップは、「導入目的の明確化」だ。導入目的というと、生産性向上やワークスタイル変革といったキーワードがよく挙がるが、城田氏はこうした言葉について、「魔法の呪文みたいになってしまっている。生産性向上やワークスタイル変革の中身を突き詰めて精査しないと、KPIの設定も難しい」と注意を促す。
KPIの設定とそれに基づく継続的な効果測定は、目的を達成するために非常に有効な手段だ。しかし、そもそも目的が曖昧だとKPIの設定のしようがない。また、KPIが設定できないようでは、当初の目的を見失うリスクも高まる。
例えば、“セキュリティファースト”の落とし穴に陥るという事態だ。使い勝手とセキュリティはどうしてもトレードオフの関係となるため、せっかくBYODの導入やスマートデバイスの会社支給を行っても、セキュリティを厳格化していけばいくほど、ユーザーである従業員には使ってもらえない。生産性向上やワークスタイル変革を目的に導入したのに、いつの間にかセキュリティの担保が、あたかも目的のようにすり替わってしまうケースはよくあることだ。
しかし、導入目的を明確化し、KPIも継続的に測定していけば、そうした“本末転倒”は避けられる。城田氏は「モバイルファーストの時代にはセキュリティファーストからの脱却が重要」と話す。