
東京科学大学 工学院 特任教授(ソフトバンクフェロー兼任) 藤井輝也氏
ソフトバンクと東京科学大学 特任教授(ソフトバンクフェロー兼任)の藤井輝也氏は2025年11月27日、Wi-Fi機能を活用したドローン無線中継システムによる遭難者捜索支援システムに関する記者説明会を開催した。通信事業者に依存せず、全キャリアの端末に対応できる点が最大の特徴だという。
藤井氏は遭難者捜索における課題について「大地震や台風などの災害で土砂や瓦礫に埋もれる遭難、雪山での雪崩などで雪に埋もれる遭難、山菜取り等に出かけた人の行方不明が急増している。遭難者の位置が特定できない場合、捜索は困難を極めている」と説明。ほぼすべてのスマートフォンがGPSを内蔵しており、位置測定精度は数mから10m程度であるが、山岳地帯など携帯電話の圏外エリアでは、GPSで位置情報を取得しても捜索側に通報できない。また、Starlinkなどの衛星通信サービスについては対応端末が必要なだけでなく、雪下や瓦礫下では上空の衛星との通信ができないという課題を指摘した。
携帯電波からWi-Fiへの転換で全キャリア対応を実現
ソフトバンクは2016年から、ドローンに携帯無線中継システムを搭載する捜索支援システムの開発に取り組んできた。このシステムは静止衛星通信を利用し、現地到着後1時間以内に運用を開始でき、遭難者だけでなく捜索者の位置情報も把握することで二次災害を防ぐ効果があったという。2023年2月には北海道倶知安で実証実験を実施し、システムの有効性を確認したが、システムには課題が見られたと藤井氏。

従来のドローン携帯無線中継システムの課題
ソフトバンクに割り当てられた周波数の携帯無線装置を使用していたため、他の通信事業者の端末とは通信ができず、ドコモ、au、楽天モバイルユーザーなどの位置情報の取得が困難だった。また、電波法関係審査基準の規制により、ドローンを地上に有線で係留する必要があり、広域の捜索ができなかったことから、藤井氏は「実証実験の免許を取得してシステムを検証したが、一般端末は利用できず、十分に活用ができなかった」と当時を振り返った。
そこで着目したのがWi-Fiだという。Wi-Fiは通信事業者に依存せず、ほぼすべてのスマートフォンに内蔵されている、また、2.4GHz帯のWi-Fiは電波法関係審査基準の規制がなく、上空での無線中継が可能なのがメリットだという。新システムは携帯通信をすべてWi-Fi通信に置き換える「All Wi-Fi」のコンセプトで構築。具体的には、遭難者のスマートフォンとドローン上の中継装置(子機)、ドローンと地上の中継装置(親機)、さらに地上装置からインターネットへの接続まで、すべての通信経路でWi-Fiを活用する。インターネット接続には低軌道衛星(LEO)通信を採用することで、山間部などでも容易にシステムを展開できるようになったと藤井氏は説明した。
新システムでは高利得指向性アンテナを採用することで、中継距離は最大5km、通信エリアは半径500mから1,000m、捜索エリアは最大4km(1回の飛行時間は15〜20分)を実現し、全通信事業者の端末に対応、地上への係留も不要となったという。















