小規模量子ネットをつなぐ
P2P型量子通信は、QKD用途を目的とした装置を東芝が提供しており、実用段階にある。対して、量子中継の実用化にはまだ長い年月がかかる。
そこで、NTTはその中間技術として、400kmが限界とされるP2P通信を1回だけ中継して、QKDの通信距離を800km程度まで伸ばす方式を提案している。送信者と受信者から光子を送って中継点で干渉させるシンプルな方法で、量子メモリや量子誤り訂正符号も不要。800kmなら国内の広い範囲をカバーできる。
一方、欧米では、短距離の量子ネットワークを10年程度で実用化しようとする構想が勢いを強めているという。クラウド量子計算や分散量子計算に利用するために「小規模でいいから、高速で動く量子ネットワークを作るのが目的だ」(東氏)。現在のインターネットと同様、小規模だが拡張可能な技術に基づく量子ネットワークを作り、徐々に広げていく──。そんな道筋を描いているのだろう。
日本が欧米に追いつくための勝負どころも、ここだ。「原理的に拡張可能な量子中継で1パスを通すことに世界中がしのぎを削っている。これができた途端、量子インターネット実現への取り組みが一気に加速する可能性がある」と武居氏。スケーラブルな量子通信アーキテクチャを確立する勝負はこれからだ。
また、量子インターネットの発展は、「量子コンピューターのOSがどんなプロトコルを採用するかに依存する」と未来ねっと研究所 フロンティアコミュニケーション研究部 グループリーダの外村喜秀氏は指摘する。量子コンピューター開発の進展に伴って、ネットワーク業界での議論もさらに活発化していくだろう。

NTT未来ねっと研究所 フロンティアコミュニケーション研究部 グループリーダ 外村喜秀氏
新関氏も、「欧米でテストベッドが盛んに立ち上がっていて、初期の量子中継器の完成と実装に向けた競争が激化している」と話す。例えば、量子メモリを開発する米Qunnectとニューヨーク大学がニューヨーク市の光ファイバー網を使った量子情報の送信実験を実施。LQUOMは三菱電機、ソフトバンク、三井物産、クオンティニュアム、慶應義塾大学等と共同で量子ネットワークを構築し、段階的に拡張する構想を進めている。
また、量子通信の社会実装段階では、NTTが構築を進めるIOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク)も基盤として有力視される。「IOWNは低消費電力にするためにメディア変換を避けて光だけで通信する。すなわち、エネルギー損失がない通信システムを目指している。エネルギー損失が起これば量子性も失われることを考えると、IOWNの先に全光量子中継による量子インターネットを作るという将来像も描ける」と東氏。日本の強みである光技術で“5年遅れ”からの追い上げがなるか、期待される。













