他のインフラシェア事業者と“協調”
――新会社の具体的な取り組みについてお聞かせください。
田口 インフラシェアリングを活用し、三井不動産グループが都市部に所有する建物や施設内外の通信環境を整備していきます。本格的な事業開始に先立ち、スタジアム案件や複合ビル案件などで実証を行ってきました。
スタジアムでは、インフォメーション施設に通信キャリアのアンテナを設置する共用架台を取り付け、4G/5Gエリアを整備しました。その結果、大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャース戦で通常を上回る来場があった際も、問題なく通信できたと聞いています。
東京都中央区の複合ビルでは、アンテナと中継装置までをシェアする5G共用装置を試験的に設置しました。このビルは、オフィスエリアと商業エリアに分かれていますが、商業エリアでは高スループットを確認でき、「通信環境が非常に良くなった」と喜ばれました。
――三井不動産ネットワークイノベーションのインフラシェアリングを活用することで、通信キャリアはどんなメリットを享受できますか。
田口 通信キャリアの基地局整備にあたっての課題の1つが、土地や建物所有者との調整です。数多くの案件を個別に進めようとすると多大な時間を要しますが、我々が窓口となり、複数の物件を一括で調整できれば、通信キャリアはスピーディーにネットワークを整備することが可能になります。
また、スタジアムや複合ビルでの実証を踏まえ、大都市圏を中心に面的な整備を進めることで、施工コストの低減や機器調達の効率化を図ります。結果として利用料を抑え、通信キャリアが参画しやすい環境づくりを目指していきます。
――他のインフラシェアリング事業者とは、どのように差別化を図っていきますか。
田口 当社としてはあまり差別化は意識していません。当社以外にも、インフラシェアリング事業者を手掛ける企業は存在しますが、各社が取り組みを進め、高速・大容量通信を都市全体に整備していくことが理想です。そのため、他の事業者とも協力しながら、インフラシェアリングを推進していきたいと考えています。
建物内の通信を統合・最適化
――インフラシェアリング以外には、どんな事業を展開されていくのでしょうか。
田口 他に2つあります。1つめが、建物内通信ネットワークの統合です。現在、建物内の通信環境は各テナント等が独自にWi-Fiなどを導入しているケースが多く見られます。
しかし、その環境が本当に最適なのかは疑問であり、建物全体の効率性に関しても、改善の余地があると思われます。
こうした現状の中、当社としては、設備構成を簡素化し、建物全体へ高速・大容量通信を提供するため、建物内のネットワークを統合して最適化を図ることが不可欠だと考えています。今後は通信キャリアと連携し、その施設の特性に応じた最適な通信環境を設計・提供していきます。
そしてもう1つ、都市部における通信ネットワークの拡張に注力します。都市部には数え切れないほどの建物があり、1棟ずつインフラシェアリングを導入していては、かなり長期にわたってしまいます。
そこで、1棟ごとに通信設備を設置するのではなく、例えばある拠点に設備を集約し、光ファイバー等の既存ネットワークやNTN(非地上系ネットワーク)等を通じて各建物に通信を供給することなどを検討しています。これにより、都市部のネットワークの効率的かつ迅速な整備が可能となり、コストの削減にもつながると考えています。
――今後の目標についてお聞かせください。
田口 三井不動産グループや連携先が都市部に保有・運営している約2000棟の建物を対象として、5年程度で約1000棟を目途にインフラシェアリングを導入する計画です。都市部における高速・大容量通信のカバーエリアを一段と拡大し、グローバルにおける日本の通信プレゼンス向上に貢献していきたいと思います。











