MCA無線利用者の移行促進も
携帯電話回線を使った車載用無線サービスが登場している背景には、いくつかの理由がある。その1つが、タクシー無線に代表される業務用無線のアナログからデジタルへの移行だ。
タクシー車両は全国に約25万台あり、そのうち約20万台に無線機が搭載されているといわれる。2016年5月末のデジタルへの完全移行まで残り3年を切ったが、現在も約10万台がアナログ無線を使用しているという。
タクシー業界は、事業者の約84%が保有車両30台以下の中小企業で、個人事業者も多い(一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会調べ)。保有車両数にもよるが、デジタル化には機器の取り替えのほか基地局の構築も必要になり、「数百万~数千万円はかかる」といわれる。
このため、デジタルへの移行に二の足を踏んでいる事業者が少なくない。NTTドコモがトランシーバサービスを開発したのも「お付き合いのあったタクシー事業者から『何かよい代替手段はないか』と聞かれたことがきっかけ」と法人事業部第二法人営業部パートナー営業推進・第一営業推進担当主査の下島光介氏は話す。
こうした中小や個人事業者の中には、MCA無線(mcAccesse)の利用者も多い。これは複数の定められた周波数を複数のユーザーが共同で使用して通信を行うもので、法人向けの業務用無線では唯一、北海道から沖縄までカバーしていながら、安価な月額料金で利用できる。
ところが、このMCA無線も現在使用している905~915MHzは周波数の再編により、2018年3月31日までに930~940MHzに移行することが決まっている(図表2)。引き続き900MHz帯でMCA無線を使用するためには、新たな周波数帯に対応した無線機への取り替えが不可欠だ。
図表2 周波数移行のイメージ |
このように、タクシーだけでなくバスやトラックも含めて業務用無線は一斉に更改期を迎えており、その市場規模は200万台を下らない、との見方もある。
携帯電話市場が成熟し、新規契約の獲得が難しくなっている中で、これだけの潜在需要が見込める新市場は携帯電話キャリアにとって魅力的だ。
特にソフトバンクの場合、現在MCA無線が使用している905~915MHzの周波数をプラチナバンドとして新たに割り当てられており、既存利用者の移行に関わる費用負担の範囲については、両者の協議によって決定することになっている。同社がいち早く車載トランシーバサービスを開始したのは、MCA無線の既存利用者の移行を早期に促す狙いもあると見られる。
ソフトバンクモバイルのプロダクト・サービス本部エンタープライズ・サポート統括部統括部長の梅村淳史氏は「基本的に、MCA無線利用者には新しい周波数でのMCAの無線の利用を推進しているが、『都市部のビル陰に入るとつながりにくくなる』『エリアごとに料金が異なる』といった不満を抱える既存のMCA無線利用者には、201SJを紹介するようにしている」説明する。