セキュリティにも目を向けよう
セキュリティも無視できない要素の1つである。クラウドPBXはインターネットを介するため、外部からの不正アクセスや情報漏洩などのリスクも否定できないからだ。AI機能においては、「自社のデータがAIモデルの学習などに利用されるのではないか」と不安を抱く企業もいるだろう。
NTTドコモビジネスのArcstar Smart PBXでは、「音声通話やデータ通信を暗号化し、盗聴リスクを低減しているほか、各種設定を行うサイトには二段階認証も取り入れている」(藤岡氏)。
Zoom PhoneのAI CompanionなどのAI機能は、「社内に蓄積されたデータや通話内容を、AIモデルのトレーニングに利用することは一切ない」(グローバルアーキテクツ・テクニカルセールスアーキテクトの深海健一氏)ため、企業内で安全にナレッジを蓄積しながらAIを活用できる。
導入後のサポートが充実したクラウドPBXベンダーを選べば、万が一の事態が発生した際も安心だ。NECプラットフォームズは、クラウドサーバーの稼働監視やセキュリティパッチの適用などを含む「スタンダードサポートサービス」を無償で提供。同社による電話でのテクニカルサポートも有償で受けられる。
クラウドPBXで2億円以上削減
クラウドPBXの導入を検討する企業の中には、「果たして本当に成果が得られるのか」と疑心暗鬼な企業も少なくないかもしれない。こうした不安を払拭するために、各ベンダーの導入実績もチェックしておきたい。
光通信グループのM Plants Consultingは、オンプレPBXや通話録音装置などをZoom Phoneに置き換えた。これにより、これまで年間で約3億円かかっていた通話関連コストを、6000万円まで削減。あわせてZoom Revenue Acceleratorを活用してトップ営業のトークをナレッジ化し、若手・新人教育に役立てている。また、会話データから顧客が関心を示したポイントを抽出し、次回以降の提案活動に活かしているそうだ。
人材サービスを手掛けるフジアルテは、MiiTel Phoneを活用し、スタッフの話速や抑揚、フィラーの回数などを定量化。良好な応対事例はグループ内に共有し、スキルの平準化を図った。結果、ベテランスタッフが主力だった2023年の着電率は18~20%だったのに対し、2024年は新卒・若手中心にもかかわらず、22%へと向上したという。
なお、MiiTel Synapse Copilotのクローズドβ版はすでに300社以上に提供されており、「ワンクリックで必要な情報を整理できた」「資料作成時間が大幅短縮された」などの声が寄せられているとのことだ。
パレット(荷役台)のレンタル事業を展開する日本パレットプールは、全国16カ所の支店・サテライトへ個別にオンプレPBXを導入しており、保守・メンテナンス費用がかさむうえ、老朽化や設定変更のたびに地元業者への依頼となり、全社的な統制が難しいという課題を抱えていた。
そこで、各支店のPBXを撤廃し、NTTドコモビジネスのArcstar Smart PBXに集約。これにより、本社から全支店の電話を一元管理できるようになり、メンテナンスにかかるコスト・手間の削減にもつながったという。
クラウドPBXを導入する際は、コストや音声品質、生産性向上に資するAI機能、導入実績の豊富さなど、自社にとって優先度の高い要素を見極め、その条件を満たす製品を選ぶことが重要になるだろう。