Twilioの日本市場戦略「ユーザー価値の最大化へ、通信事業者と共創」

CPaaS市場をリードするTwilioは、複数チャネルを横断したデータ収集と柔軟なAI活用で顧客体験の高度化を加速させている。日本法人社長の久保氏に、国内戦略を聞いた。

国内課題は認知拡大・規制対応

――日本市場の展開を強化するうえでの課題は何ですか。

久保 Twilio自体の認知度がまだ低いことです。

メール配信サービス「SendGrid」は日本でも多くの企業に利用されていますが、これがTwilioの製品だと知らない企業が少なくありません。CDPのSegmentも、米国では圧倒的なシェアがありますが、日本ではTwilioがCDPも提供していること自体があまり認知されていません。

通信に関わる規制も課題です。米国ではすでに導入されている「Branded Calling」(着信時に発信元企業名やロゴをスマートフォン画面に表示する機能)は、詐欺や迷惑電話対策として有効ですが、日本では現行の制度上、導入が認められていません。また、「ショートコード」と呼ばれる認証済みの短縮番号を用いたSMSの送信は、受信者が正規送信元を判別しやすくなる点で高い利便性がありますが、総務省の厳格な審査を要するため、普及が進んでいません。こうした機能を普及させるためには、総務省や通信事業者との連携が不可欠です。

欧米と比較し、クラウド化への移行が限定的であることも課題といえます。クラウド基盤上でAIやデータ分析、顧客エンゲージメントを強化するというニーズは日本でもありますが、既存のオンプレ環境を前提とした設計が多いため、柔軟なAPI活用やAI統合が進みにくい傾向があります。特に電話番号やPBXなどのレガシー資産を多く抱える企業では、移行のハードルが依然として高いと感じます。

通信事業者とはWin-Win関係を

――通信事業者とはどのような関係性を築いていく考えですか

久保 Twilioにとって通信事業者はサプライヤーでもあり、エンドユーザーでもあり、販売パートナーでもあり、そして場合によっては競合にもなり得るという、非常に複雑で多面的な存在です。そのうえで、Win-Winの関係を築くことを重視しています。

固定番号のポータビリティが2025年1月に解禁され、企業は電話番号を維持したままクラウドベースの音声通話やSMSなどの柔軟なコミュニケーション環境に移行しやすくなりました。しかし、通信事業者にとっては、長年構築してきたビジネスモデルや設備構成への影響が避けられないため、必ずしも利害が一致しない部分もあります。

一方で、Twilioのクラウド通信基盤を取り込んで自社サービスを強化するようなケースでは、非常に密接なパートナーシップが成立しています。通信事業者自身がAIエージェントやチャットボットを活用した顧客対応サービスを提供する際に、TwilioのマルチチャネルAPIやAI連携機能を活用することで、迅速かつ高品質なサービス設計が可能になります。

また、通信事業者が海外拠点を含む法人顧客向けにグローバルな通信サービスを展開する際には、Twilioのインフラを利用することで、自社ではカバーしきれない国・地域を補完できるというメリットがあります。これは、Twilioが世界中で構築してきたネットワークとAPI基盤が、通信事業者のサービスの“裏方”として機能する形です。

大切なのは、最終的にエンドユーザーにとっての価値を最大化するという視点を共有できるかどうかです。Twilioはその実現に向けて、技術だけでなくビジネスの柔軟性や共創の姿勢を持ち続けていきたいと考えています。

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