放送システムのIP化への取り組みが大きな潮流になっている。
従来、放送業界のスタンダードだった同軸ケーブルを利用したSDI(Serial Digital Interface)による伝送システムを、インターネットプロトコル(IP)によるシステムに置き換えることをIP化と呼ぶ。放送専用技術として発展してきたSDIはギャランティ型の技術であり、高い安定性、信頼性により放送品質を担保してきた。同等の品質をベストエフォート型のIP技術で実現するのは困難だと考えられていた。
しかし、それはすでに過去の話となりつつある。機器性能の向上や新たな伝送規格の登場により、IP伝送の品質は高まった。そしてIP伝送こそが、放送業界が直面する課題解決の手段として期待が寄せられている。IP化への投資は“サステナブル”
放送業界の課題とは何か。
スイッチなどのネットワーク機器を中心に、IP伝送機器を「次世代Media over IPソリューション」としてグローバルに展開するファーウェイは、放送業界の課題を同軸ケーブルの限界、限られた拡張性、困難なO&M(運用管理)の3つと捉えており、それを同社の製品が解決するとアピールしている(図表1)。
図表1 放送業界の課題とファーウェイ次世代MoIPソリューションの導入効果
メーカーや製品によって個別機能の違いはあるが、専用装置と専門技術が必要なSDIから、汎用的なIP技術の活用に移行することで、システムの柔軟性、拡張性を高め、かつコストを削減することが目的となるのは、業界に共通した認識だ。
国内で放送IP化の議論が本格化したのは東京五輪の開催を控えた2016年ごろだ。当時は4K映像を効率的に伝送する手段としての実験的な取り組みの位置づけであり、4K/8Kを伝送するのに「SDIか、Media over IP(MoIP)かの議論があった」とファーウェイ・ジャパン 法人ビジネス事業本部 メディア事業部 部長の池田俊樹氏は振り返る。SDIも上位規格である「6G-SDI」「12G-SDI」を開発し4K/8K伝送に対応したが、最大100メートルの伝送距離や高価な設備が必要だというSDIの短所はそのままだった。
IP伝送を選べば、LANケーブル一本で事実上無制限の距離を伝送でき、使用する機器も汎用品が使え、コストダウン効果が見込める。
また、放送業界に限らず、遠隔地にある設備を共用したり、必要に応じクラウド上のリソースを活用するなど、企業の設備所有に対する考え方は変化している。
「クラウドを含めた遠隔地のリソースに映像や音声を伝送するにはSDIでは不可能で、IP伝送が必要」と、ソニーマーケティング B2Bプロダクツ&ソリューション本部 B2Bビジネス部コンテンツソリューション企画M K1課の塚本亮輔氏は説明する。
こうしたシステム柔軟化の基盤となるのがIP化であり、今後の設備のさらなる進化や拡張にも対応できる「より効率的でサステナブルな設備投資」(塚本氏)になる。