――ISDB-Tmm方式の携帯端末向けマルチメディア放送「モバキャス」の放送局「NOTTV(ノッティーヴィー)」が4月1日にサービスを開始しますが、一般のユーザーからはワンセグとの区別がつきにくいとの声も聞こえます。また最近、「YouTube」や「ニコニコ動画」をスマートフォンで視聴する人が増えていますし、ドコモも「BeeTV」「Hulu」といった動画サービスを手がけていますが、これら先行サービスとはどのように差別化を図りますか。
二木 ワンセグは解像度がQVGAでフレームレートが15fpsであるのに対し、NOTTVはワイドVGAで30fpsという品質のため、ワンセグの10倍の高画質で放送します。
また、東京から名古屋に行くとチャンネルが変わることからわかるように、ワンセグは地上デジタル放送のローカル番組を無料で提供しています。これに対し、衛星放送は全国同じチャンネルの有料放送ですが、現状テレビ以外で見ることができません。NOTTVは2チャンネル目をニュースチャンネルとして衛星放送と連携して24時間最新のニュースを放送する予定で、CSやBSのモバイル版としての役割も担っています。
通信のネットワークを使う「ニコニコ生放送」は魅力的なコンテンツですが、残念ながら「今」の情報を一斉に多くの人に見てもらおうとすると負荷がかかりすぎてしまいます。NOTTVは放送波なので、一斉に多くの人が見ることに向いています。
また、通信で送るデジタルコンテンツは、視聴者が取りに行くプル型ですが、NOTTVではプッシュ型で送りますので、週刊誌や月刊誌など、その時の旬の情報が定期的に届くようなコンテンツに向いています。
――通信で送るコンテンツとは差別化し、モバキャスならではの特徴を活かした独自の番組を作るというわけですね。
二木 そうです。通信と放送が「融合する」というと双方が混ざり合い、どちらかが相手を呑み込むようなイメージがあります。しかし、私はこれらが「連携する」ことで新しい価値が生まれるという捉え方をしています。
現在、子会社でハード事業者のジャパン・モバイルキャスティングを含めると187人の従業員がいます。このうちドコモからは約100人で、残りは放送局などさまざまな会社から集まっており、番組の内容と、放送システムや端末の機能を議論しながら進めています。通常はまずシステムありきで、それに合わせたコンテンツを後から考えるのでしょうが、NOTTVは提供できる機能とコンテンツの議論を同時並行で進めているのが画期的であり、まさに通信と放送の連携だと思います。
――通信と放送の連携を活かしたコンテンツには、具体的にどのようなものがあるのですか。
二木 例えば、1台の端末で番組を視聴しながらTwitterやFacebookなどと連携して楽しむことが可能で、ソーシャルメディアの著名人が登場する番組を予定しています。また、放送波は上りの周波数も使えるので、視聴者参加型のクイズ番組やオークション番組などインタラクティブ(双方向)性を前提にしたコンテンツも期待できます。
米国では「スマートテレビ」(インターネット機能を搭載し、ゲームや動画、SNSなどが利用できるテレビ)が注目を集めています。スマートテレビはインタラクティブ性が特徴の1つですが、日本ではまだテレビをインターネット接続している家庭は多くありません。
その点、NOTTVはスマートフォン向けの放送局ですから、最初からすべての視聴者向けにインタラクティブを前提にした番組を作ることが可能です。日本でもいずれスマートテレビの時代が訪れるはずで、NOTTVが「モバイルスマートテレビ」として先駆けとなり、新しいテレビの視聴方法や番組作りを実現できるのではないかと考えています。