クルマと自転車に「5秒前」の接近通知
見通しの悪い交差点において、クルマと自転車の衝突を回避するサービスも開発中だ。
危険スコアの高い交差点を対象に、クルマや自転車が同時に接近したときに運転者のスマホへ事前通知する。スマホの位置情報を活用してクラウドで接近を判定し、交差点に侵入する「5秒前から10秒前に通知する」(大谷氏)ことを目指す。
クルマと自転車の接近通知のイメージ
トヨタと名古屋大学の検証では、十分に減速するためには5~6秒前の通知が望ましいとの結果が出ており、これを実現するために「クラウドで接近判定を行う車両を限定したり、判断自体をシンプルにすることで低遅延化している」という。板橋区で行った公道実証では、平均で時速10kmの減速に成功した。
さらに、継続的に利用してもらうことが大事になるため、危険な交差点に限ってアラートを通知したり、交差点への進入時以外には位置情報の取得間隔を長くしてスマホの電池消費を抑えるといった工夫を行っている。
クルマと自転車への接近通知の様子
コネクティッドサービスは「横断監視」が必須
通信やクラウド、エッジコンピューティングを活用したコネクティッドサービスには、こうした安全安心を実現する可能性がある反面、従来のクルマにはなかった新たな課題も生まれる。
1つが、不具合箇所の発見、原因特定と復旧が難しくなることだ。クルマ、通信ネットワーク、サーバー設備が連動してコネクティッドサービスを実現するため「障害の早期解消には、この3つの運用情報を横断的につなげて遠隔から見守る」ことが欠かせないと大谷氏は述べる。また、外部からの攻撃に対抗するセキュリティ対策も複雑化する。
この横断的な監視とセキュリティ対策を担うのが、「つながる みまもりセンター」だ。応答遅延などのネットワーク状態変化、サーバーの混雑度などを監視し、トラブルが発生した場合には影響範囲を特定する。
攻撃通信の検知のイメージ
セキュリティ対策に関しても、ネットワークだけでなく車両、サーバーも含めて異常を検知し、クルマへの影響を軽減したり、一時停止を進めるなどの回避対策を行う。
コネクティッドカーのエッジ処理をグリーンに
グリーンなモビリティ社会の実現、モビリティ体験価値の拡張についても今後取り組みを加速させる。
モビリティ業界では現在、EVシフトをはじめCO2排出削減の取り組みが進んでいるが、コネクティッドカーが普及すると、新たな課題も生まれる。データ処理量が増大することで、エッジコンピューティングやクラウドでのエネルギー消費量が増大することだ。
その対応策としてKDDIでは2つの取り組みを始める。
まず、エッジ処理にかかるエネルギーを低減するために、液浸冷却方式のコンテナデータセンターを活用する。2024年2月5日からこの実証実験を開始した。
コネクティッドサービスのグリーン化への取り組み
また、コネクティッドサービスには「必ずしも即時性が求められない処理もあるので、それは再生可能エネルギーが使えるサーバーへとルーティングする」(門脇氏)。
モビリティ体験価値の拡張については、5G、衛星通信、Wi-Fiを組み合わせた「マルチパス通信」によって移動時間を楽しくするためのサービスを提供する。
また、移動前後と移動中のシームレスな移動体験を創出する新サービス「おでかけデザイン」のトライアルも開始する。友人や知人とコミュニケーションしながら“おでかけ計画”を作成できるサービスで、2024年2月20日から5月31日まで実施する。
説明会にはゲストとして、トヨタ自動車 情報システム本部 情報通信企画部 部長の木津雅文氏が参加した。「3つのテーマのいずれでも成果が創出されている」と手応えを述べたうえで、「今後も、通信事業者ならではの取り組みを継続して、広く社会に貢献するビジネスにしていきたい」と展望を語った。