SDHの統合でコストを最大6割削減、遅延も半減させる次世代型WDM

テラブスが展開するP-OTSは、WDMとL2スイッチを統合した次世代の伝送システム。既存のSDH設備を統合する形でも導入でき、コスト削減、運用の簡素化、遅延の低減などのメリットをもたらす。

低遅延は法人に訴求できる

では、P-OTSの導入は通信事業者に対してどのようなメリットをもたらすのだろうか。これは、大きく3つの側面から捉えることができる。

まず挙げられるのが、ハードウェア関連コストの削減効果だ。

WDMとSONET/SDHやL2スイッチの統合により、シャーシや電源、管理モジュールなどの共通要素が1つで済む。設備コストが下げられるうえ、省スペース化・省電力化にも貢献する。また、キャリアグレードのネットワーク機器間の接続は一般に光ケーブルで行われるが、その際の電気信号を一旦光信号に変換する処理(EOE)も、この統合により不要となる。

テラブスの日本法人で社長を務める古屋知弘氏は「統合化によるコストメリットは最低で30%、ネットワークの構成によっては50~60%にも及ぶ」と話す。

2つ目が運用の簡素化によるメリットだ。P-OTSでは管理システムも統合され、WDMとSONET/SDHが一体的に運用できるようになる。これにより、WDMとSONET/SDHに配置されていた保守・運用の人員を別の部署で活用できるようになり、事業全体のコスト削減にもつなげられる。

運用の簡素化という面で、もう1つ見逃せないのが、統合化によりWDMとSONET/SDHにまたがる帯域割当の変更などの作業が容易になることだ。従来のネットワークでは、これは手作業で行われており、数週間から時に月単位の期間を必要としていたが、P-OTSではこれが大幅に短縮される。新サービスがタイムリーに投入できるようになり、また同様に障害発生時の対応も効率化できる。

サービス品質の向上にもつながるのが3番目の要素、遅延の短縮だ。P-OTSでは、間にSONET/SDHの装置を介することなく、WDMとルーター/L3スイッチが直接接続されるため、EOEによる遅延が半減するのだ。古屋氏は「ネットワークそのものが低遅延化されることは法人ユーザー対して極めて有効なセールストークになる」と指摘する。

事業者にとってP-OTSの導入メリットはかなり大きいといえそうだ。

図表 P-OTSと従来型の伝送システム
図表 P-OTSと従来型の伝送システム

2015年には3000億円市場に

P-OTSは、米国の大手通信事業者のベライゾンが開発を主導しているもの。テラブスは5年程前からこのプロジェクトに参画し、すでに約3000台のTellabs7100をP-OTSのノードとして納入している。

北米を中心としたP-OTSのマーケットは、テラブスが5割弱、残りをアルカテル・ルーセントと富士通が2分する構図だ。

ベライゾンは2013年に整備を開始する次世代伝送システムをP-OTSで構築する計画を打ち出しており、さらに他のキャリアにも導入が広がることが期待される。調査会社のレポートでは、2015年時点で少なくとも3000億円超のマーケットが成立すると予想されている。

テラブスでは先行優位を生かしP-OTSの日本への展開にも意欲を見せるが、国内ではどのような形でP-OTSを普及させようとしているのだろうか。同社が当面、最も有望な市場と見るのがデータセンターだ。

データセンターの多くは、複数拠点を自社の光通信網で結び一体運用を行っている。これをP-OTSに更新すれば、運用の負担が大幅に軽減でき、サービスをタイムリーに提供できる利点も生じる。また、障害時に別サイトのサーバーに機能を切り替えた場合も遅延の差分が小さく、サービス品質に影響を及ぼさないことも大きなメリットとなるという。

古屋氏は「クラウドサービスやモバイル高速化に代表される今後のトラフィックの急増により、バックボーンの強化を迫られている固定・移動通信キャリア、データセンターへの導入も期待できる」としており、さらに2013年から本格的に始まる大手キャリアによる次世代統合IP網への採用を目指すという。

P-OTSの登場が日本の通信インフラ市場の勢力図に、少なからぬ影響を及ぼす可能性もありそうだ。

月刊テレコミュニケーション2011年11月号から再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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