なぜ「Asterisk」に再び脚光?――「日本」対応で普及加速するオープンソースIP-PBXソフト

オープンソースのIP-PBX「Asterisk」に再び注目が集まっている。対応するIP電話サービスの登場や、使い勝手の向上が図られるなどしたためだ。なかでもCTIでのコストメリットは顕著だ。

国内メーカーの電話機も利用可能に

AsteriskベースのIP-PBXはこれまで日本では普及していなかったこともあり、電話機もAsterisk対応として実績が豊富な海外メーカーの製品が使われることが多かった。だが、次第にユーザーからは「日本語対応の電話機が欲しい」というニーズが高まっている。

ナカヨ通信機・営業統括本部IPS開発営業部課長の豊田雅彦氏は、「故障時の対応に安心感のある国内メーカーを希望される方が多く、当社のSIP電話機を利用したいという問い合わせが増えてきた」と明かす。

国内大手メーカーのIP-PBXの場合、他社のSIP電話機をつなごうとしても、各社がSIPの拡張部分に独自に手を加えているために、接続できない場合がある。だが、Asteriskは「作りが複雑ではないので、さまざまなメーカーの電話機がつながりやすい」という。とはいえ、発着信などの基本機能は問題なく使えても、保留転送などができないケースがあった。そこで同社は、「ナカヨ標準SIP」を作ってAsteriskベースのIP-PBXを開発するベンダーに電話機の技術情報を開示し、それに合わせてPBX側でチューニングしてもらう方法に切り替えた。

あるベンダーはナカヨのSIP電話機のパーク保留に対応したパッチを開発した。Asteriskはパーク保留をした場合、プログラマブルキーのランプ表示をする仕様にはなっていなかった。このため、パーク保留をした時は「パーク○番」という音声メッセージが受話器から流れ、応答する人は受話器を取ってパーク番号を押すことで保留応答をしていた。この場合、音声メッセージの番号を忘れるとその呼がどこに行ったか分からなくなるという不便さがあったが、パッチにより解消できたという。

ナカヨのSIP電話機の採用例としては、TOHOシネマズが挙げられる。Asteriskを使って拠点間内線網を構築した同社では新たに開業するシネコンにナカヨのSIP電話機を採用している。また、大手のホテルチェーンやビジネスホテルでの採用実績も多く、なかには200台以上を導入したビジネスホテルもあるという。豊田課長は「一部の機能制約はあるものの、いずれのケースも問題なく稼働しており、Asterisk関係者からは高い評価を得ている」と語っている。

コールセンターの構築コストが3分の1に

このように日本企業にとっても十分実用的になってきたAsteriskだが、特にどのようなケースで向いているのだろうか。

実際の導入事例としては多いのは、まず小規模企業だ。あるPBX/ビジネスホンディーラーの営業部長は「これから起業するベンチャー企業にはベスト」と語る。「固定電話は必要だが、なるべくお金はかけたくない」というケースで、Asteriskは最適な選択肢の1つとなるだろう。なお、Asteriskベンダー各社が推奨する同時可能通話数は200程度と、大企業が利用できる製品はまだないようだ。

もう1つコールセンターでの採用例も増えている。例えば通信系SIerのオーティ・コムネットはAsteriskベースのIP-PBXとCTI、通話録音サーバーの3つをセットにしたソリューション「CRALiS」(クラリス)を提供しているが、そのきっかけはシスコシステムズの「Cisco Unified Communications Manager(旧称:CallManager)」を利用してコールセンターを構築していた顧客がリプレース時期を迎えたことだった。「このようなご時世なので、コストを削減したい」という顧客の要望に対し、Asteriskベースのシステムを提案して採用されたという。

成田裕一常務によれば、一般的なコールセンターはPBXがあって、その後ろでCTIが動く形のため、それぞれのコストが必要となるが、「CRALiSはAsteriskベースのためにPBXとCTIを一体化でき、コストを大幅に削減できる」とのこと。このユーザーの場合、通常の約3分の1のコストで済んだという。

既存の電話の使い勝手を大切にするなど保守的な日本企業において、Asteriskがすでに「普通の選択肢」になっているとはもちろんまだまだ言えない。しかし、CTIを安価に実現したい場合などコストを最重視するケースでは、すでに有力な選択肢の1つになっていると言えそうだ。

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