野村証券の英国支社でグローバル技術マーケティングのアナリストを務めるRichard Windsor氏は、モバイル業界で著名なアナリストの1人だ。2001年から現職で業界を見ており、フィンランドNokia、米Apple、米Googleなどデバイス側、プラットフォーム側、サービス側と広い視点からの鋭い分析力に定評がある。氏の見解は英Financial TimesやReutersなどによく引用されている。
6月9日、英ロンドンで開催された「Open Mobile Summit 2011」でWindsor氏は、スマートフォンとタブレットのトレンドについて分析を披露した。ここでは、1)ミッドレンジとApple、2)タブレットのコモディティ化の2つを中心に、Windsor氏の見解をまとめる。
「Appleの収益性は高すぎる。この状況は長く続かない」
「端末市場の価値はスマートフォンにシフトした」とWindsor氏は言う。長い間Nokiaが独占してきた世界の携帯電話市場だが、スマートフォンによりゲームが変わった。
2011年第1四半期のNokiaとAppleの出荷台数、売上、利払い前の税引前当期利益を比較すると、出荷台数はNokiaが1億900万台、Appleが1860万台とNokiaが5~6倍であるのに対し、売上高はAppleが122億8000万ドル、Nokiaは102億9000万ドル、利払い前の税引前当期利益はAppleが4300万ドル、Nokiaは1010万ドル、とAppleの収益性の高さがずば抜けていることがわかる。
AppleとNokiaの比較 |
そうした上で、Windsor氏はスマートフォンが中心となった携帯電話市場で収益を上げるには、「ユーザーが使いたくなるようなソフトウェアと利便性を強化するツール、それにソフトウェアの投資に見合った価値を引き出すハードウェア――この2つが重要だ」と言う。AppleのiPhoneはそれを体現した成功例となる。
ベンダーの勢力を地域別にみると、300ドル以上のスマートフォンは北米、西ヨーロッパ、アジアで1機種で勝負するAppleが売上高ベースで約50%のシェアを持つ。Nokiaは東ヨーロッパと中東市場で何とかリーダーの座を維持しており、南米ではAndroidが猛攻している。300ドル以下になると、Androidベンダーの独壇場だ。ローエンドのスマートフォンではSymbianのNokiaとAndroidがせめぎあっている。
世界のスマートフォンベンダーのポジショニング |
先進国の市場を欲しいままにしてきたAppleだが課題もある。500ドル程度をスマートフォンに支払う層には一巡しており、今後は北米・西欧州からアジア市場、ハイエンドからミッドレンジの2つがけん引役になると見る。「Appleの収益性は高すぎる。この状況は長く続かない」とWindsor氏。
300ドル以下のスマートフォンはAndroidベンダーがほとんど独占している。この市場は2010年、23%増で成長しており、2011年の成長率は28%増、2013年は38%増を見込むという。地理的には日本を除くアジアからの強い需要が市場に影響を与え、ここでもミッドレンジとハイエンドはAndroidとAppleが主流になると予想する。数あるAndroidベンダーの中でもアジア系が優勢で、MotorolaとSony Ericssonについては「不安」と述べた。また、中国などアジアでプレゼンスの高いNokiaにもチャンスがあるとした。
300ドル以下のミッドレンジ端末が売上に占める比率は今後拡大する |
このようなトレンドを受け、Appleが成長を続けるにはアジア市場にもアピールするミッドレンジが必要、とWindsor氏は見ており、「Appleが2012年までに、ミッドレンジのスマートフォンを投入する可能性がある」と述べた。今後について、Windsor氏は、Androidを担ぐ台湾HTC、中国ZTE、韓国LG、韓国Samsungなどのアジア勢が優勢で、Nokiaの劣勢が続くと予想するが、Appleがミッドレンジ向けスマートフォンをそろえると、Androidの競争も大きく変わることになると見る。
一方で、Androidにも課題がある。バージョンがばらばらの端末が混在することでアプリケーションの互換性が損なわれる分断化、セキュリティの2点をWindsor氏は課題に挙げた。