<連載>10年後のネットワークを創る研究者たち(第7回)ソフトバンク 基盤技術研究室 長谷川直輝氏二コラ・テスラの世界を目指して ワイヤレス電力供給と通信が融合

今回は、ソフトバンクの基盤技術研究室で無線電力伝送を研究する長谷川直輝博士にお話を伺う。ソフトバンク、京都大学、金沢工業大学は現在、共同で携帯電話基地局にWPT機能を持たせIoTデバイスにワイヤレスで電力を供給するシステムを研究中だ。研究の中心人物の1人が長谷川氏である。Beyond5G/6Gでは、通信だけでなく電力供給も「サービス」として可能になる可能性があるという。

IoTデバイスがこのまま普及すると2035年には一兆個、つまり人間一人に対して100個のIoTデバイスが存在するという予測があります。いまでは、多くのIoTデバイスが乾電池などの1次電池を使っていますが、こうなるともう電池交換という作業そのものが困難になってしまいます。

何らかの方法で電力を供給しなければなりませんが、すべてをコンセントにつなぐというわけにもいきません。1つの解決策として太陽光や風力などによるエナジーハーベスティング(発電)がありますが、曇りの日もあれば、風が吹かない日もあり、こうした環境による電力供給は、制御が困難で、安定した電源供給には課題が残ります。これに対してワイヤレス電力伝送(WPT:Wireless Power Transfer)は、人工的に作り出す制御可能な電源であり安定した給電が可能です。いくつかの方式がありますが、電磁波を使うWPTならば、遠距離の電力伝送が可能という特徴があります。

反面、大きな電力を供給するのは簡単ではありません。電磁波は距離の2乗に応じて減衰するため、大きな電力を伝送するには強い電磁波を発生させる必要があります。電子レンジが電磁波で食品を加熱することからわかるように強い電磁波は生体にとって危険なものになり得ます。それを考えると数10マイクロワットから数10ミリワット程度の電力供給が適切な範囲と考えられます。例えば、Bluetooth Low Energy(BLE)を使う追跡タグのようなデバイスでは数百マイクロワットが平均消費電力であることを考えますと、多くのIoTデバイスにとって適切な範囲といえます。

我々は、こうした範囲のWPTを携帯電話の基地局に搭載し、基地局近傍のエリアにあるIoTデバイスへの電力供給を行うシステムを研究しています(図表)。現在の成果として、携帯電話で使われているOFDM通信とWPTを両立させることに成功しました。具体的には、時分割でデータ通信とWPTを行いました。

図表 通信装置へのWPT機能実装イメージ

図表 通信装置へのWPT機能実装イメージ

5Gには、スマートアンテナを利用し、端末に対して指向性の高いビームを使って通信するMIMO技術が使われます。このとき通信を時分割として端末にビームを向けます。その時間スロットの一部をWPTに割り当て、基地局近傍のIoTデバイスに対して電力供給を行います。

WPTが可能なエリアは、基地局がカバーするセルに対して狭いですが、現在は、セルのマイクロ化が進んでおり、今後は基地局の数が増えると考えられます。

我々の研究では、基地局のハードウェアに大きな変更を加えるのではなく、ほぼそのままでパラメーターを変更することで、基地局にWPTを行わせます。こうした取り組みにより将来的には、モバイル通信の仕様にWPTを取り込むことも見据えています。

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長谷川直輝(ハセガワ・ナオキ)氏

2013年京都大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了。同大博士後期課程入学ののち2015年からJAXA特別共同利用研究員、技術研修生を経て、2018年博士後期課程修了。ソフトバンク入社

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