通信事業者の中期経営計画を確認すると、その多くが通信事業に危機感を持ち、ARPU(1ユーザー当たりの収益)の拡大と、CAPEX(投資コスト)/OPEX(運用コスト)の削減に取り組んでいる様子がうかがえる。
特にコンシューマー市場については、人口減少が進むなか、ユーザー数の拡大が期待できない状況が続く。「ARPU拡大とCAPEX/OPEX削減は通信事業者にとって永遠の課題と言える」とNEC ネットワークサービスビジネスユニット ネットワークソリューション事業部門 BSS/OSS事業統括部 BSS SEグループ ディレクターの横井裕氏は語る。
さらに「楽天の新規参入以降の通信料金の値下げにより、収益は減少している」とServiceNow Headof Telecom, Media & Technology(TMT),Japanの松田康典氏が話すように、近年は通信料金の値下げも向かい風となってきた。特に影響が大きかったのが、政府による料金値下げ要請を受けて、2021年3月に大手キャリア3社が導入した新料金プランである。20GBのデータ通信を月額3000円以下で提供し、APRU下落に拍車がかかった。
このようにコンシューマー事業の収益性が低下する中、通信事業者が活路を見出しているのが法人ビジネスである。「ユーザー数は頭打ちだが、IoTの普及によりコミュニケーションするデバイスは増えており、この領域のユーザーを取り込んでいかなければならない」と松田氏は指摘する。
手作業で運用
かつて自身も通信事業者に勤めていた松田氏は、法人ビジネスの課題をこのように話す。「オペレーションの効率化が遅れており、コンシューマー事業と比べてユーザーライクなサービスの提供に至っていない。運用がマニュアル化し、ユーザーからすると複雑化している」(図表1)。
図表1 マニュアル化されたワークフローのイメージ
通信事業者の法人向けサービスのWebサイトを訪れると、多種多様なサービスが並び、目的に沿ったサービスもすぐに見つけることが可能だ。だがその一方で、大抵の場合はネット上でサービスを申し込むことはできず、契約には営業担当者への問い合わせが必要になることにも気づくはずだ。「ユーザーからの問い合わせの裏では、多くの人員がマニュアルでシステムを動かし、時間をかけて対応している」と松田氏は明かす。
手作業からの脱却のために、まず必要となっているのが、通信事業者向け業務システムであるBSS/OSS(Business Support Systems/Operation Support Systems)の改修である。
BSSは、ユーザーからの申込受付からサービス提供、契約管理、料金計算、請求、回収、収納、督促までの一連のプロセスを担う。「多くの通信事業者がBSSを3Gの時代から改修してきた歴史があり、現在はブラックボックス化やサイロ化したシステムが乱立している状況になっている」と横井氏は解説する。これは、通信事業者のネットワークの運用管理システムであるOSSも同様の状況だ。
ブラックボックス化/サイロ化したシステムは、迅速なサービス展開の障害となっている。現在は、「『契約すれば1年間Netflix無料』といった具合に、商材の組み合わせで工夫して勝負する時代になっている」(横井氏)が、システムの都合でタイムリーに提供できない。