――6月29日に開催した社長就任会見では、「伝新人輪」(でんしんじんわ)という漢字4文字で、経営方針を示しました。「NTTの伝統を守りながら、人と輪を広げ、新たな挑戦をする」という思いを込めたとのことですが、海外畑を長く歩まれた国際派の森林社長が「電信電話」(でんしんでんわ)をもじった漢字の経営方針とは、意表を突かれました。
森林 どうしようかと考えたのですが、英語で言うより、漢字4文字のほうが分かりやすいし、インパクトもあると思い、あえて漢字にしました。
私に面と向かって「駄目」とは言いにくいでしょうから、バイアスはかかっているかもしれませんが、社員などからは「分かりやすかった」「印象に残った」といった感想を言われるのでよかったです。
――6月17日の社長就任直前まで、前職でプレジデントを務めていたNTTLtd.の本社オフィスがあるロンドンにいらしたそうですが、「伝新人輪」もロンドンで考えたのですか。
森林 出張が直前に入っていたこともあり、日本に戻ったのは着任3日前の6月14日とギリギリでしたから、「伝新人輪」の言葉はロンドンにいる間に決めていました。
新領域を50%以上へ
――この4つの漢字それぞれに、NTT西日本がこれから目指す方向性が示されているわけですが、1つずつ詳しく説明いただけますか。
森林 まず「伝」ですが、NTT西日本の伝統を守るという意味もありますし、「伝える」という使命のこともあります。
我々の一番大きなビジネスは、やはりICTインフラの部分です。昔は電話、今は光がメインですが、このインフラはNTT西日本の強みであるし、社会に与えるインパクトという点でも大変重要です。また当然ながら、インフラに従事している社員数が最も多いです。
NTT西日本が持つ伝統と技術を守り、磨き続けることが基本であり、まずはここを「しっかりやります」との思いを「伝」の1文字に込めました。
――4つの漢字のうち、最も注目されるのは「新」です。就任会見では「新たな領域、新たなビジネスへ挑戦する」と宣言しました。
森林 新たな挑戦こそが、私に期待されていることだと考えています。会社が成長していくためには、新たな領域、新たなビジネスが必要なことは間違いありません。
――そこで従来の光・電話以外のビジネスの売上比率を2025年度に50%以上にする目標を打ち出しました。現在、40%弱の新領域のビジネスの割合をどうやって50%以上へと伸ばしていきますか。
森林 いろいろなビジネスの積み重ねで実現していきます。すでに立ち上がっているビジネスをさらに伸ばしていくという方向性もあれば、これから新たに立ち上げていかなければならないビジネスもあります。
現在のベースとなっているインフラビジネスと違って、「新」のところは何がうまくいくかは分かりません。多くのチャレンジをしながら成長させていくことになります。
――新たなチャレンジの1つが、グローバル展開です。「ビジネスにグローバルな視点を」との方針を表明のうえ、その第1弾として子会社のNTTソルマーレが提供する「コミックシーモア」をグローバル展開していく考えを明らかにしました。コミックシーモアは、約3500万人の月間利用者を有する国内最大級の電子書籍配信サービスです。
森林 海外で暮らしていて、日本のアニメやマンガの人気の高さは肌で実感していましたから、需要があることには自信を持っています。
私としては今年度中にコミックシーモアをグローバル展開したい気持ちがあり、ソルマーレ社とも、今、どうやるかを議論しているところです。
――今後立ち上げる新サービスについては、グローバル展開の可能性があるかどうかが、1つの基準になるのですか。
森林 日本で成功した高品質なサービスが、海外でも成功する可能性は、コミック以外にもあると考えています。
例えば、医療・介護ベッドとマット型睡眠センサーで国内トップシェアのパラマウントベッド社さまとの合弁会社、NTT PARAVITAもその1つです。AIを活用したスリープテックサービスを提供しています。寝ている間に取得したデータを健康増進に活かす、「睡眠を科学する」サービスですね。
NTT西日本の強みは通信やデータ解析であり、広帯域通信を使った遠隔診療などヘルスケア領域には多くの可能性があると見ています。健康の悩みを持つ人は世界中にいますから、日本だけでなく、グローバルで成功する可能性があるでしょう。
このようにグローバルな視点でやろうというのは私の信念でありますが、ただし「何でもグローバルに展開しようと考えている」と見られているとすれば、それは誤解です。国内中心で、もっと伸ばしていくべきビジネスもたくさんあります。
例えば、NTTマーケティングアクトProCXのコールセンタービジネスです。国内でのシェアをさらに拡大していけると考えています。その一方、グローバルへ出て行くべきかと言うと、言葉の問題もありますし、簡単ではありません。
また、NTT PARAVITAもそうですが、ドローンを活用したインフラ維持サービスを手掛けるジャパン・インフラ・ウェイマーク、電子教科書の配信サービスを提供するNTT EDXなど、すでに立ち上がっているが、まだまだ小さいビジネスを1つでも多く軌道に乗せていくことも重要です。