「オープンインターネット」を巡る攻防[後篇]~妥協の末、中立性原則が法制化

コムキャスト控訴審での敗訴、中間選挙での民主党の議席減退により急転した米国におけるネットワーク中立性原則の法制化を巡る争いは、12月21日、いかなる決着を見たのか。

(前篇はこちら

2010年夏。関係事業者らとの協議を連邦通信委員会(FCC)が進めていく中で、オープンインターネットを確保するための法制化の主要論点が、大まかに3点に集約されていく。

第一は、FCCの法的な権限についてである。不公正・不合理な差別的取り扱いを禁止した通信法第2章の規定のブロードバンドへの適用を提案するジェナカウスキー委員長に対しては、市民団体や民主党関係者が強く支持する一方で、「そうなるとFCCの権限が強くなり過ぎる」とAT&Tなどや共和党関係者は根強く反対意見を主張した。

第二、第三の論点は、09年10月にFCCが規制制定提案公告(NPRM)で提案したオープンインターネットの6原則の適用の例外となる分野に関するものであった。例外を極力絞って考えたい市民団体などに対し、事業者・共和党サイドは、6原則を仮に固定・有線のブロードバンドサービスに適用するとしても、これを適用しない「特別サービス」(ブロードバンドインターネット接続サービスの提供に使うラストマイル設備容量を共用して提供する他のサービス)を広く認めるべきと主張した。そして無線移動サービスについても多くの適用の例外を認めるべきだとする議論が強く提起された。

法改正アプローチの頓挫

こういった中、同じオープンインターネット政策を推進する立場ではあるが、FCCの動きを待たず、連邦議会による新規立法に期待したのがグーグルだった。中間選挙で民主党の勢力が減退する前に妥協を成立させるべく、グーグルは8月9日、ベライゾンと共に、法制枠組みに関する提案を発表した。

グーグルとベライゾンによるこの提案では、6原則は基本的に踏襲しつつも、オープンインターネット政策に批判的な立場への歩み寄りを狙い、上記の主要論点について次のような提案を行っている。

第一に、FCCの権限に関しては、FCCは、意図的な義務違反に最大200万ドルの罰金を課す権限などにより事案ごとの判断で執行することとし、規則制定権を持たないこととした。

第二に、ブロードバンドインターネット接続事業者は、6原則の適用を受けない「追加的オンラインサービス」を提供できることとした。これによってインターネットコンテントやアプリケーション、サービスにアクセスしたり利用することができるとし、また、トラフィックの優先的な取り扱いも可能であるとした。そして、これがブロードバンドインターネット接続サービスの実質的な利用可能性に脅威を与えたり、消費者保護を侵害したりするようであれば、FCCはこれをレポートできるとしている。

第三に、「無線ブロードバンド」においては、唯一、透明性原則のみを適用させることとした。

翌10日にはグーグルのエリック・シュミット会長兼CEO及びベライゾンのアイバン・セイデンバーグ会長兼CEOがワシントンポスト紙への寄稿で解説を行うなど、この提案は広く世論へアピールすることを狙ったものだった。

しかし、FCCからすれば、利害関係者との会合を進めている最中のタイミングでのこの提案は、事態打開の妨げにしか見えなかった。コップス委員は9日、「これで議論が前に進むと考える人がいること自体が問題だ」とする声明を発表。ジェナカウスキー委員長も「この時期のこの提案は、議論をむしろスローダウンさせるものであった」と述懐している(11月18日のWeb2.0サミット)。

FCCとの共同歩調を崩してさえもグーグルが期待をかけた連邦議会での動きは、下院のワックスマンエネルギー商業委員会委員長が中心となって進めた。ワックスマン委員長のアプローチは、2年間のみの時限的な暫定措置によるものだ。恒久的解決策は、後年あらためて連邦議会で見い出そうというのである。

彼の提案では、FCCの法的権限について、2年間はFCCがブロードバンドを「電気通信サービス」に再分類することを禁じる。その一方で、FCCにコンテント、アプリケーション、サービスのブロックを阻止する権限を復活させ、7万5000~200万ドルの罰金でルール執行を担保することとした。しかし、無線ブロードバンド事業者については、ブロッキングが禁止されるのは、Webサイト及び音声・ビデオ会議サービスと競合するアプリケーションについてのみとされた。

また、合法的なトラフィックに対する不当な差別的取り扱いを禁止することとしたものの、その対象は電話会社及びケーブル会社に限定した。

透明性原則に関しては、FCCに規制の制定を命じることとし、その適用対象を限定はしていない。

このように、ワックスマン委員長の提案は、共和党側に配意したものであり、グーグル・ベライゾン提案とも共通的な部分があるものだ。ただ、移動サービスについては、6原則の適用対象を若干広く捉えたものであった(図表1)。

図表1 各提案におけるNRPMの原則の適用
図表1 各提案におけるNRPMの原則の適用

しかし、共和党のジョー・バートン筆頭委員からはついに支持が得られず、9月29日、同委員長は、中間選挙前の法案策定が頓挫したこと、FCCの動きに期待することを声明で述べるに到った。

他方、ジェナカウスキー委員長の方は、9月1日、あらためて6原則の法制化に向けて再度意見募集をすると発表。11日、FCCとして、特に焦点となる「特別サービス」と「移動無線サービス」の2分野について、さらなる意見募集を開始した。だが、そのリプライコメント期限は11月4日とされ、手続きは、もう同月2日の中間選挙前に終了しないことが明らかになっていた。

月刊テレコミュニケーション2011年2月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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藤野 克(ふじの・まさる)

1990年郵政省(現総務省)入省。93年シカゴ大学社会科学修士号(MA)取得。総務省では、料金サービス課課長補佐(接続政策担当)、電気通信事業紛争処理委員会事務局上席調査専門官、通信政策課企画官(電波法改正担当)等を歴任。2006年早稲田大学非常勤講師。08年より現職。著書に『電気通信事業法逐条解説』(08年共編著)がある

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