次世代ワイヤレス技術の実用化ロードマップとインパクト[第1回]【コグニティブ無線】電波利用のムダなくす、ホワイトスペース活用のコア技術

2020年までに200倍以上になるとの予想もあるモバイルデータ通信のトラフィック量。急増するこのトラフィックにいかに対処していくかはモバイルの今後にとって最重要課題の1つだが、その切り札と目されているのが「コグニティブ無線」である。

TV帯域の共用は2015年以降?

ヘテロジニアス型より市場へのインパクトがはるかに大きいと考えられているのが(2)の周波数共用型だ。

図表2 共用型によるホワイトスペースの利用イメージ
共用型によるホワイトスペースの利用イメージ

これは、既存の無線システムに割り当てられているが、その地域で使われていない、あるいは利用時間が限定されている周波数帯を別の無線システムで利用できるようにするもの。米国ではテレビ放送の空きチャンネル、いわゆる「TVホワイトスペース」を活用するための技術として実用化が進められている。

ホワイトスペースの開放はグーグルやマイクロソフト、デルなどのIT企業が求めてきたもので、2008年11月にFCC(米連邦通信委員会)がデジタルテレビとワイヤレスマイクの周波数帯を免許不要で共用型システムに開放することを決定した。

TVBD(TV Band Devices)と呼ばれるホワイトスペースを利用するための無線機には、テレビ放送などへ干渉を与えない仕組みが必要となる。そこでコグニティブ無線を使い、未使用周波数の検知機能が実現されているが、これだけではTVBDがテレビ電波の届きにくい物陰に位置する場合などに問題が生じる。

そのため、外部にエリアごとに利用できる周波数と時間を登録したデータベースを設け、TVBDが内蔵のGPSで特定した現在地に基づいて、その周波数が使えるかどうかを照会する仕組みの導入が計画されている。FCCはTVBDに対し、(1)TV電波が存在しないことを高感度(-114dBm)で検知できる機能を持つこと、(2)GPSにより50mの精度で現在位置を特定できること、(3)データベースに最低1日に1度アクセスするという条件を課している。

TVBDには出力100mWの移動用と出力1Wの固定用の2タイプがあり、家庭内の情報機器のブロードバンド接続などの用途が想定されているが、後者を基地局として利用、複数の基地局でメッシュネットワークを形成し、少額の投資でブロードバンドサービスを実現する構想もある。こうした形で通信サービスを提供する事業者は、周波数の割り当てを受けた「プライマリオペレーター」に対し、「セカンダリオペレーター」と呼ばれる。

米国では2012年ごろの周波数共用型の実用化が見込まれており、その動き次第では日本でのホワイトスペース開放の機運が高まりそうだ。

国内ではNICTが周波数共用型の開発を進めているが、原田氏は「導入時期はおそらく2015年以降になるのではないか」と言う。米国に比べ人口の密集度が高い日本では干渉対策など技術面でのハードルが高くなることに加え、放送局などの利害関係者のコンセンサスを得るため、パイロットシステムの運用などの実績を積み重ねる必要があるためだ。

周波数の逼迫状況を考えれば、いずれこの種のシステムの導入は避けられない。しかもコグニティブ無線はテレビの空きチャンネルだけでなく、あらゆる無線システム、周波数帯に適応できる可能性を持つ。

「使われていない周波数は、本来の用途に支障を来さない限り、他のシステムが使っていい」――こうしたコンセンサスが形成できれば、使える周波数は一気に数倍に広がる。

第2回「【ボディエリアネットワーク】健康状態を遠隔から常時見守り 体内に埋め込むインプラント型も」
第3回「通信技術の活用で「ぶつからないクルマ」を実現」
第4回「五感情報を無線で伝える「ワイヤレス臨場感通信」」

月刊テレコミュニケーション2009年8月号から転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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