非地上系ネットワーク(NTN:Non-Terrestrial Network)とは、衛星やHAPS、航空機・ドローン等を“空飛ぶ基地局”として活用し、無線通信によって空と宇宙空間をネットワーク化しようとする構想だ。目的は、地上・海・空をあまねく通信エリア化することにある。
Beyond 5G/6Gでは空・海、宇宙を含むあらゆる場所へのカバレッジ拡張、いわゆる「超カバレッジ」を目標の1つに掲げており、世界中でNTNの実現に向けた技術研究が進められている。
情報通信研究機構(NICT)が取り組んでいるのが、「衛星フレキシブルネットワーク基盤技術」だ。キーポイントは「フレキシブル」にある。通信リソース、アンテナビーム、通信経路といった要素を柔軟に制御し、衛星やHAPS、ドローン等で構成されるNTNと地上系ネットワークを接続。いつでも・どこでも・誰とでも通信できるネットワークを構築しようとしている。
無線と光を併用し、空・宇宙空間に「3次元的ネットワーク」
その構想では、空と宇宙空間を多層的に使い、様々な経路によって宇宙から地上までをつなぐネットワークの開発を目指している。
NTNでは様々な“空飛ぶ基地局”を活用するが、高度によってその種類は異なる。宇宙空間では静止衛星/非静止衛星、成層圏ではHAPS、より低高度な航空機やドローンが無線ネットワークを構築。地上系も含めて、それぞれの通信プラットフォームを「3次元的に接続する」ことで、通信リソースを有効に活用でき、かつ、いつでもどこでもシームレスにつながる通信環境を実現する。
WTP2022のNICTブースでは、その要素技術と実証の成果が紹介された。1つが、衛星やHAPS・ドローン用の超小型光通信機器だ。
これは、一般的な無線通信に代わる通信手段として「光空間通信」を用いるもので、Gbps/Tbps級の高速通信が可能なうえ、通信機器の小型化・軽量化、低消費電力化にもつながるという。NICTの構想では、この光空間通信と電波による通信を併用し、フレキシブルに使い分けることを目指している。
HAPSやドローン、超小型衛星用の光通信機器(左)。
右は地上に置かれるユニットで、HAPS等を追尾しながら光の送受信を行う
ブースには、実験に用いられた装置も展示されている。高度20kmのHAPSや、高度100m程度を飛ぶドローンにも搭載が可能だ。光は直進性が強いため、地上に置かれるターミナル(上写真の右側)はHAPSやドローンを追尾しながらビームを放出することで接続を維持する。
小型衛星に搭載するための光通信機器「CubeSOTA」も開発中だ。説明員によれば、低軌道衛星(LEO)と地上との間で10Gbps、LEOと静止軌道(GEO)との間で数Gbps級の無線通信が可能になるという。
航空機搭載用の平面薄型アンテナ
航空機も“基地局”化する。ブースには航空機への搭載を目指して開発された「平面薄型アンテナ」も展示されている(上写真)。航空機と衛星間、航空機と地上局や船舶等との間での利用を想定したものだ。現時点では装置自体が大きく、空気抵抗が増すために航空機の外側に取り付けることはできないが、将来的には航空機の外壁に埋め込めるほどに薄型化する(装置中央の黄色部分がアンテナ)ことを目指すという。
これらの光・無線通信機器では、30Ghz帯や38GHz帯など、複数の高周波数帯を用途や環境に応じて使い分けることを想定しているという。このような超小型・軽量かつ消費電力も少ない無線・光通信装置が実用化されれば、効率的に空・宇宙空間へネットワークを展開できるようになる。低価格な移動通信サービスを世界中で提供可能になるほか、民間企業が宇宙産業分野へ参入しやすくなるなどの効果も期待できる。