東大発ベンチャーがAIやバイオなどの領域で注目を集めているが、今度はローカル5Gの東大発ベンチャーが登場した。今年6月に設立されたFlare Wirelessである。
その中心人物は、5GMF ネットワーク委員会やBeyond 5G推進コンソーシアム 国際委員会の委員長を務めるなど、日本の5G/Beyond 5Gをリードしている東京大学の中尾彰宏教授だ。
東京大学 大学院 工学系研究科 教授/Flare Wireless CTO 中尾彰宏氏
かねてより「情報通信の民主化」というメッセージを打ち出し、ローカル5Gの普及促進にも力を注いできた中尾教授。「最近は『かゆいところに手が届く通信』と言っているが、5Gをカスタム化して利用できるところに大きな意味がある」とローカル5Gについて語る。
このローカル5Gの意義を手軽に実現できるようにすることが、Flare Wirelessの最初のターゲットだ。
ローカル5Gが「1つの箱」に通信キャリアの公衆サービスは、下り重視になっている。WebサイトやSNS、動画の閲覧など、上りよりも下り通信の方を多く利用するユーザーが大半だからだ。キャリアとしては当然の選択である。5GにおいてもTDD(時分割複信)の下り/上りの配分は7:2と、圧倒的に多くのスロット数が下りに割り当てられている。
だが、5Gで期待されている多様なアプリケーションの中には、これでは困るケースが少なくない。中尾教授らが広島県江田島市で行ったカキの養殖場での水中ドローンの実証実験もそうだった。「公衆5Gは、水中ドローンの映像を高精細でアップロードするには向いていないのではないか」
中尾教授らはその後、今度はローカル5Gを用い、上りのスロット比を増やして再実験を行う。「結果、4Kの非常に高精細な映像を届けられると同時に、水中ドローンを低遅延でコントロールすることもできた」
実験に利用したのは、汎用サーバーベースのSub6対応ソフトウェア基地局だ(図表1)。中尾研究室が、ある欧州ベンダーのソフトウェア基地局をベースに無線システムを強化した設計を行い、柔軟なTDDスケジューリングなど必要な機能をカスタマイズしたもので、5Gコアもオールインワンで1台の汎用サーバーに搭載する。
図表1 汎用サーバー上にモバイルコアと基地局をオールインワンで実装
「我々は“Local 5G-In A Box”と呼んでいる」
ローカル5Gの特徴は、かゆいところに手が届くことだ。しかし現状、誰もが中尾教授のように自らの手を、かゆいところに届かせられるわけではない。カスタマイズは簡単ではなく、そもそもローカル5Gの導入コスト自体もまだ高いためだ。
中尾教授は、Local 5G-In A Boxを製品化することで、こうした課題を解決しようとしている。