企業ネットワーク最前線

IoTでサンゴを絶滅から守る 「地球の医者」目指すイノカ

文◎原田果林(編集部) 2020.11.12

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イノカは、IoTを活用した「環境移送技術」によってサンゴの人工産卵を目指すベンチャー企業。他にも、水圏生態系にまつわる教育や研究、事業開発などを通してSDGsの達成に貢献し、「地球の医者」を目指す。

 
今、サンゴが絶滅の危機に瀕している。ハワイ大学マノア校の研究チームによれば、海水の温暖化や酸性化、海洋汚染が原因で世界のサンゴ礁の約70~90%が20年以内に消滅し、2100年までにはほぼ絶滅する可能性があるという。サンゴ礁の面積は地球上の全海洋面積の0.2%だが、海洋生物種の25%にあたる約9万3000種の生物種が生息しており、またサンゴ礁の経済価値は、漁業、沿岸の保護、観光業、生物学的価値などから、年間約300億ドルと言われている。

そんなサンゴを、IoTの活用によって絶滅から守ろうとしているのが、東大発のベンチャー企業、イノカだ。

「取り組みのきっかけは、昨年6月に沖縄でサンゴの産卵を始めて目にしたこと。雪が舞うようで非常に幻想的で美しい景色だった。最初はそれを東京で色々な人に見せたいというシンプルな思いからスタートした」とイノカ 代表取締役CEOの高倉葉太氏は話す。直後の7月からサンゴの人工産卵プロジェクトのためのクラウドファンディングを始め、1カ月で約70万円を調達。10月頃から水槽内でサンゴの抱卵・産卵に向けた実験を開始した。

 

 

イノカ 代表取締役CEO 高倉葉太氏
イノカ 代表取締役CEO 高倉葉太氏

 

 

環境移送技術で沖縄の海を再現実験は、イノカが独自に開発を進める「環境移送技術」によって、水槽内の環境を、実験に使用したサンゴが生まれ育った沖縄の久米島付近の海と同じ状態にして行われた。

環境移送技術とは、水槽内において水質や水温、水流、照明環境、微生物を含む生物の関係などのバランスを取りながら、IoTデバイスを用いて実際の自然環境と同期させ、特定地域の生態系を限りなく自然に近い形で再現する技術のこと。デバイスは自社で作成したり市販品を改造しているといい、これらを接続してシステム化するところまで独自で研究開発している。

「当社には、アクアリウムを極めすぎた結果、家を半分改造してサンゴ礁の生態系を作ってしまった日本唯一の水槽担当役員であるCAO(Chief Aquarium Officer)がいる。彼のような日本有数のトップアクアリストの独自ノウハウを、私やエンジニアが体系化、アルゴリズム化している。体系化というのは例えば、光や波、熱などの物理的パラメーター、水質などの化学的パラメーター、魚や微生物などの生物的パラメーターなどをコントロールできるようにすること。そうしてリアルな生態系を誰でもどこでも作れるエンジンを作成し、今回の実験ではそれに沖縄のリアルタイムの海水温データなどを紐づけ、IoTの技術を使って当社の水槽にデータを送信して常に『今の沖縄』の環境を再現し続けた」

そして2020年5月にサンゴの抱卵を確認。6月にサンゴの体調が悪くなったことから実験を一旦終了したが、今後この実証実験の結果を踏まえ、2021年3月の産卵を目指して再チャレンジする予定だ。

 

 

産卵実験の対象のサンゴ(左)。抱卵を確認した際の写真
産卵実験の対象のサンゴ(左)。抱卵を確認した際の写真。ピンク色の卵が確認できる

 

 

「今回の実験では、他の事業も含めて管理しなければならない水槽が増えていたこともあり、監視が完全にできているとは言えなかった。次回はサンゴの状態をしっかり監視できるシステムを別途作成したい。また、水槽内に現地の状態を再現しているといっても、まだまだ精度を上げられる余地がある。今までは気象庁が公開している海水面の温度データを取得して再現していたが、サンゴが生息するのは水面から数メートル潜ったところ。海はちょっと潜るだけでも水温が2、3度違う。また、同じ種類のサンゴでも水深5メートルに住むものもいれば、1メートルぐらいに住むものもいるし、石垣島と沖縄本島のサンゴでは性質が違う。次回はそうした細かなデータも考慮し、個体に合わせてより再現度を上げて実験したい」

将来的には、環境移送技術を発展させて研究プラットフォームにしたいという思いもある。「サンゴ礁に限らず、海、川、池、沼などの藻場の生態系を再現できるようにすることで、研究者たちが現地に行かなくても研究できたり、これまでできなかったような研究ができるようにしたい。様々な生態系にまつわるデータ、研究が蓄積されることでイノベーションが生まれる可能性もあるし、当社の目標である『地球の医者になる』を実現する技術にも繋がるだろう」
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