IoT、エッジ活用を加速させる新技術 お金や専門知識が無くてもIoTシステムが構築できる?

予算や専門知識がなくても独自のIoTシステムをつくり、エッジと組み合わせて活用できる仕組みを構築しようとする取り組みがある。目指すのは、IoT・エッジ活用の浸透によるサイバーフィジカルシステムの実現だ。

Society 5.0の実現に向け、サイバーフィジカルシステム(CPS)を構築するための研究開発が、内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期で進んでいる。CPSとは、現実空間のデータをIoTデバイスから収集、デジタル空間で分析・処理し、結果を現実空間にフィードバックすることで現実空間に価値を持たせる仕組みのこと。CPS構築に必要な研究開発テーマの1つとして、NECと九州大学が共同で取り組むのが「My-IoT開発プラットフォームの研究開発」だ。

CPS構築のためには、IoTとエッジコンピューティングを普及させる必要があるが、そのハードルは高い。そのため現時点で導入が進んでいるのは一部の業種、企業に限られている。一から自社用にカスタマイズしたIoTシステムを構築・導入するには大きなコストがかかること、自分たちで開発しようにも高度な専門知識が必要になることなどが理由だ。また、コスト以外にも、揺らぎや欠損のない綺麗なデータを収集する仕組みが未成熟であるなど、様々な面で課題がある。

NECの岡山義光氏によれば、九大との共同研究ではこれらの課題を解決するため、「今のエッジコンピューティングの分野で足りない技術を作り、加えて専門的な知識がなくとも自分たちで簡単にIoTシステムを構築できるように支援するツールをつくる」という。具体的には4つの技術開発(図表)と実証実験、普及のための仕組みづくりを行う。

図表 「My-IoT開発プラットフォームの研究開発」の開発範囲[画像をクリックで拡大]
図表 「My-IoT開発プラットフォームの研究開発」の開発範囲

CPS実現のカギ技術開発の1つめは、ExpEther技術のソフトウェア化だ。ExpEtherとは、コンピューターのリソースをEthernetを利用して拡張する技術。最近のコンピューティングは、コンピューターの台数を増やすスケールアウトが中心だが、エッジコンピューティングではリアルタイム性を高めるため1つのコンピューターで全てを処理する必要があり、スケールアップが求められる。これを実現できるのがExpEther技術となる。従来のExpEther技術はチップで組み込んでいたが、ソフトウェアにすることで、拡張スロットなどの制限なくあらゆるハードウェアに組み込むことができる。

2つめがセンサーフュージョン。設備や環境の状態、バイタルなど現実空間の多種多様なデータの統合的なセンシングを可能にし、処理しやすい形に合成する技術だ。また、搭載するエッジ上にアクセラレーターが入っていれば高速に稼働させる。これも汎用ハードウェア上で動くようにソフトウェアとして実現する。

3つめがアクチュエーターモデルだ。これは通信の遅延や揺らぎが避けられない無線環境でも、ロボットやドローンなどをリアルタイムで安定して遠隔制御できる技術となる。

上記の3つが岡山氏の言う「今のエッジコンピューティングに足りない技術」。そして4つめの、「自分たちでIoTシステムを構築できるように支援するツール」が、研究テーマ名にも採用したMy-IoT開発プラットフォームだ。「自分にとって最適なIoTシステムが作れるということでMy-IoTと付けた」

My-IoT開発プラットフォームでは、「ちょっとPCが使えるぐらいの現場の人なら簡単にIoTシステムがつくれる」ようになる機能を提供したいという。

データベース、認証、分析、可視化機能などはもちろん、例えばエッジサーバーの電源を入れると自動的にクラウドに接続、ドライバなどが自動配信され特段セットアップをしなくてもすぐ使える「Plug&Play」を実現する。

エッジサーバーを動かすためのアプリケーションの作成も、Node-REDの技術を活用したGUIの開発環境で簡単にできる。それでもプログラミングが難しい場合には、”やりたいこと”を伝えれば、その実現に最適なテンプレートをリコメンドする機能を搭載予定だ。エッジサーバーを買わなくともスマートフォンやタブレット上でエッジサーバー用のアプリケーションを動かすことができる「簡易IoT」機能などの構想もある。

「ここまで手厚い機能があれば、自分たちに必要なIoTシステムがかなり楽に作れる。お金がなくてIoTができない、システムが難しくて無理だという人達に対して導入の障壁を下げてあげたい」と岡山氏は言う。

さらに、得られたプログラム集やノウハウを販売できるIoTストアも構築する。将来的にはコンソーシアムで運営し、技術やノウハウをライセンスしてユーザーの新たなビジネスを生む構想だ。

月刊テレコミュニケーション2019年12月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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