医師がIoTを処方する時代へ

高成長が期待されているヘルスケアIoT市場だが、実は「稼ぐ」ことが難しい市場でもある。課題の1つは、健康に無関心な層にどうリーチするか。今、突破口が見え始めている。

「健康分野のマネタイズは難しい。ビジネスとして成功しているヘルスケアIoT事業者は、私の知る限りほとんどいない」。こう語るのは、三菱総合研究所 ヘルスケア・ウェルネス事業本部 ヘルスケア・ウェルネス産業グループリーダー 主席研究員の古場裕司氏だ。

ヘルスケアIoT市場は拡大を続けており、2022年には2018年の約10倍弱まで伸びる見込みだ(図表1)。自動車やエネルギーなど、他分野と比べても成長率は高い。

図表1 IoT製品の分野別規模予測
図表1 IoT製品の分野別規模予測

しかし、ヘルスケアIoTコンソーシアムで理事を務める高橋透氏は次のように指摘する。

「IoTを活用した体重計やウェアラブルデバイスなど、機器そのものの利益率は低く、行き詰まり感を持っている事業者も多い」

市場規模の拡大とは裏腹に、ヘルスケアIoT事業者は稼ぎ方に苦心しているのが現状である。

データ不足が課題に収益向上にあたって直面している課題の1つがデータ不足だ。

製品の売り切りでは利益率が低いため、ヘルスケアIoTビジネスにおいては、有料のサービスを継続的に利用してもらうことが重要になる。つまり、生活習慣病の予防など、ユーザーの行動と健康状態を具体的に変化させるサービスを提供することが必要だが、そうしたサービスを開発するためには運動や食事などに関するデータを高精度かつ長期的に取得・分析しなければならない。しかし、そのためのデータがそもそも不足しているのだ。

「購入から3カ月もすると、多くのユーザーは機器を利用しなくなる。このため、連続したデータを得ることは難しい」と古場氏は話す。

データ不足を解消する方法は大きく2つある。1つは顧客体験の改善だ。ユーザーが無理なく継続できる製品を提供することが重要になる。

例えば、京セラはイヤホンなどに組み込める、小型の血流量センサーを開発中だ。ユーザーは音楽を聴くついでに血流量と心拍を測定できる。血流量が高いと、体温が上昇している懸念も高い。このため、高血圧の予防だけではなく、高齢者が熱中症になっていないかなど見守りにも活用できるという。

アシックスは、ソールにIoTセンサーを挿入できるスニーカーをno new folk studioと開発している。スニーカーに一度センサーを入れてしまえば、ジョギングやウォーキングの際、特に意識することなく歩数を計測できる。

アシックスのIoT対応シューズ
アシックスのIoT対応シューズ

さらに何も身に着ける必要なしに、データを取得できるサービスも登場している。大阪ガスのIoT対応省エネ給湯器「エコジョーズ」だ(図表2)。お風呂の水位変化を利用して体脂肪率が測定できるほか、入浴時の消費カロリー、入浴時間も自動的に記録できる。

図表2 IoT給湯機エコジョーズの仕組み
図表2 IoT給湯機エコジョーズの仕組み

こうした工夫を重ねていくことで、顧客体験は改善され、データ不足も解消されていくはずだ。

月刊テレコミュニケーション2018年12月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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