5Gの早期商用化に最もアグレッシブな国の1つが米国だ。
AT&T、ベライゾンの2大通信事業者が、28/39GHz帯を利用し、5Gを年内に商用展開する計画を打ち出している(ベライゾンは独自仕様の5G)。直進性が強い28/39GHz帯で広いエリアをカバーするのは難しいため、当面、FWA(固定無線アクセス)や4Gのエリアに浮かぶホットスポット的なサービスとなるが、世界初の商用サービスとなる可能性が高い。
AT&Tとベライゾンを追いかける3位、4位も5Gに積極的だ。5Gを一気に全米展開しようとする動きを見せており、むしろ両社のほうが注目に値するかもしれない。
まずTモバイルは昨年5月、2019年に5Gサービスを開始する計画を打ち出している。また、スプリントは今年2月、2019年上半期から5Gサービスを開始し、同年中に全米へ展開する計画を明らかにした。
Tモバイルとスプリントに共通するのは、4Gで利用している既存周波数帯に5Gを導入する点だ。Tモバイルは600MHz帯、スプリントは2.5GHz帯を用いる。
図表1 米国における5G展開
周波数利用効率が50%向上600MHz帯は、かつてテレビ放送に利用されていた帯域。米FCCが実施したオークションで、Tモバイルは2017年春に約80億ドル(約8800億円)を投じて、米国全エリアで平均31MHz幅の帯域を獲得した。
伝搬特性に優れる1GHz以下の低い周波数帯(ローバンド)の確保で、これまでハンディを背負ってきたTモバイルは、今回取得した600MHz帯を活用し、他社を凌駕するネットワークの構築を目指している。すでに2017年秋から一部地域で600MHz帯を用いた4Gサービスを提供しており、2020年末までに全米をカバーする5Gネットワークを整備するとしている。
こうした展開が可能になった要因の1つには、3GPPで昨年末に策定された5Gの無線仕様「5G NR(New Radio)」において、600MHz帯もサポートされたことがある。
5G用の新規帯域だけではなく、既存帯域も当初から5Gの運用帯域として規定され、その1つとして600MHz帯も含まれたのだ。
もう1つ重要なポイントは、最新の基地局装置が、ソフトウェア更新で4Gから5GNRにアップグレードできることである。
ノキアでモバイルネットワーク製品のアジア太平洋地域責任者を務めているブライアン・チョー氏は、「当社は5G用のソフトウェアを2018年下期に提供する」と明かす。5G対応スマートフォンの供給開始は2019年になる見込みのため、これを待ってTモバイルは5Gサービスを開始することになる。
ノキアソリューションズ&ネットワークス
RANプロダクト統括本部長 ブライアン・チョー氏
では、600MHz帯を使った5Gサービスはどのようなものになるのか。「Tモバイルは無制限の定額制データ通信サービスで成功を収めており、5Gの初期段階では、その強化に活用するのではないか」とチョー氏は見る。5Gと4Gをキャリアアグリゲーションで束ねれば、高速化と同時に通信の安定性向上も期待できる。
5GNRでは、4Gの無線仕様をベースに低遅延化や広帯域化への対応が図られているが、同じ帯域幅、同じアンテナ構成であればデータ通信速度自体は4Gと変わらない。
しかし、周波数利用効率は、5Gのほうが格段に高くなる。「4Gと比べて、周波数利用効率は50%ほど高い」とチョー氏は説明する。参照信号を削減して干渉を低減する「Ultra-LeanDesign」、基地局間協調などの技術が寄与しているという。
定額制データ通信を売りに攻勢をかけるTモバイルにとって、容量が5割も拡大する5Gの600MHz帯への導入は当然の選択といえる。