[シリーズ]FUTURE NETWORK 最終回給電の未来は「ワイヤレス」へ――IoTデバイスに効率的に電力供給

IoT化が進んだ未来、データだけではなく、電力もワイヤレスで送るのが当たり前になっているかもしれない。配線や電池交換が不要で、電力を供給できるワイヤレス給電への期待が高まっている。

インターネットにつながったIoTデバイスの数は、2020年には300億台になるとも500億台になるともいわれる。いずれにしろ、現状を大きく上回る数のデバイスが巷にあふれることは間違いない。

IoTデバイスの動作には電源が不可欠だが、有線や電池交換による給電の場合、膨大な数のデバイスに対応するには配線や交換コストなどの面で大きな課題がある。そこで本格的なIoT時代の到来を前に、IoTデバイスに適した給電方法として、ワイヤレス給電が注目を集めている。

高さの自由度も実現ワイヤレス給電は非接触電力伝送とも呼ばれるように、ケーブルに接続せずに給電する技術だ。その方法は大きく「非放射型」と「放射型」に分類される。

非放射型は近傍領域への給電に使われるもので、電磁誘導式や磁界共鳴式などの方法がある。これに対し、遠方のデバイスに給電できるのが放射型で、マイクロ波を使った電波式が知られている(図表)。

図表 ワイヤレス給電の主な方式
図表 ワイヤレス給電の主な方式

これらの方式の中で実用化が最も進んでいるのが、送電側と受電側の間で発生する誘導磁束を利用して電力を送る電磁誘導方式だ。WPC(Wireless Power Consortium)が策定したワイヤレス給電の国際標準規格「Qi(チー)」がよく知られており、国内ではスマートフォン/タブレットの一部機種が対応しており、カフェなどの一部施設でも利用できる。

Qiは、送電側(充電器)に埋め込まれたコイルに電流を流すと磁束が生じ、受電側(端末)内部のコイルにも電流が流れる仕組みだ。電動歯ブラシなどにも使われている技術だが、伝送距離が短く(数mm~10cm)、しかも数mm程度でもずれると給電できない。送電側と受電側をぴったりと密着させないと伝送効率が下がってしまうため、IoTではスマートデバイスなどを所定の位置に置いて充電する用途にとどまると見られる。

磁界共鳴式は、送電側と受電側の双方にコイルおよびコンデンサを埋め込み、それぞれの共振器を共鳴させることで電力を伝送する。伝送距離は1~2m(理論上は数m以上)と電磁誘導方式よりも距離を長く取ることができ、主に電気自動車(EV)向けの給電方式として開発が進められている。

電磁誘導式と比べると磁界共鳴式は「平面」と「高さ」についての自由度はあるが、「向き」における自由度は同じように低く、受電器と送電器を平行に置かないと効率良く給電できないという不便さがある。その解決策として、富士通研究所は3次元(3D)によるワイヤレス給電を開発している。

富士通が開発した3Dワイヤレス給電は、平面だけでなく高さも自由度があり、複数のデバイスを干渉し合うことなく給電できる
富士通が開発した3Dワイヤレス給電は、平面だけでなく高さも自由度があり、
複数のデバイスを干渉し合うことなく給電できる

3Dワイヤレス給電は、送電器に対する受電器の向きに関係なく給電を行えるものだ。技術的には、「送電コイルと電源の間に切替器を入れることで、電源とコイルの接続方法が複数から選択できるようになる」と同社フロントテクノロジー研究所フロントデバイスプロジェクト研究員の内田昭嘉氏は話す。受電コイルの向きに応じて接続経路を切り替えることで、受電器の角度や向きに最適な磁界を作り出せるようになるという。

富士通研究所は当初、オフィスでスマートフォンやタブレット、ノートPCなど複数のデバイスを操作しながら給電する利用シーンを想定していた。しかし、複数のデバイスを同時に、しかも互いに干渉することなく給電できるため、「様々な場所に多様な方向で配置されるIoTデバイスにも有効なのではないか」(同研究所フロントデバイスプロジェクト主任研究員の大島弘敬氏)とIoTにおける活用も視野に入れている。

富士通フロントテクノロジー研究所 フロントデバイスプロジェクト 主任研究員の大島弘敬氏(右)と研究員の内田昭嘉氏
富士通フロントテクノロジー研究所 フロントデバイスプロジェクト 主任研究員の大島弘敬氏(右)と研究員の内田昭嘉氏

月刊テレコミュニケーション2017年6月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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