エッジコンピューティングは、ドコモが2020年の実用化を計画する5G(第5世代移動通信システム)の要素技術の1つでもある。ドコモはその効用についてどう考えているのか。
先進技術研究所・スマートICT基盤研究グループで主幹研究員を務める岩科滋氏は、エッジコンピューティングが必要とされる理由として次の3点を上げる。「超低遅延化」「コンテキストアウェアネス型の無線制御」「トラフィックの地産地消」だ。
エッジの効用と課題1つめの「超低遅延化」は、クルマの安全運転支援や自動運転、機械の遠隔制御といった低遅延性が要求されるアプリケーションを実現するのに不可欠な要素だ。
エッジコンピューティングの実装・展開方法としては、基地局あるいはその至近にサーバーを置いてコンピューティング処理を行う形態が検討されている。それによって、クラウドで処理を行うのに比べて、デバイスとサーバーとの距離を縮め、通信遅延を削減する。
2つめの「コンテキストアウェアネス型の無線制御」とは、「基地局の近くでアプリの処理を行うことで、アプリ処理と無線の制御をより密接に行う」(岩科氏)というものだ。アプリの要求に応じて無線の帯域や品質を変化させたり、逆に無線の品質変化に応じてアプリの状態を変化させるといった制御を行う。
使い方の例を示そう。
エッジコンピューティングのユースケースとしてよく挙げられるものにV2X(Vehicle to Everything、車車間・路車間通信)がある。V2Xを用いたコネクテッドカー向けのサービスでは、①進行方向の先で起きた事故を通知して緊急ブレーキをかけるといった低遅延・高信頼性が要求されるものもあれば、②近隣の地図情報を更新するなどの遅延・信頼性要求が低いアプリが混在する。
そこで、ネットワーク側では、アプリの特性に応じて無線帯域や品質を制御する必要が出てくる。①に使う無線リソースを確保したり、優先的に帯域制御を行うといった具合だ。
この制御を、クラウドやキャリア網のコア側からではなく基地局で行うことで、迅速かつ効率的な処理が行えるようになる。膨大な数のIoTデバイスに対して制御を行うには、現在のようにクラウドやコア設備で集中的に行うよりも「基地局に分散させるほうが適している」のだ。
3つめの「トラフィックの地産地消」とは、トラフィックの伝送と処理をある地域内で完結させることで、バックボーンネットワークの帯域や伝送コストを削減するという考え方だ。例えば、先述の②地図情報はエリアに紐付いた情報であるため、クラウドに置く必要がない。市町村や県単位でリソースを置き、そこで情報を管理し配信するような形態が適している。
最大の課題はコスト増一方、岩科氏は課題も指摘する。
1つは、設備・管理コストの増大だ。現在はクラウドやコア網に集中配備している設備をユーザーの近くに分散するとなれば、機器コストはもちろん、それを設置するための建物・スペースや電力の確保が必要だ。保守・管理コストも増える。このコスト増に見合う収益が得られるビジネスを創出できるかが課題だ。
もう1つは、低遅延性を追求した場合に懸念されるデメリットだ。岩科氏は「低遅延を求めようとすると、物理的距離を縮めるだけでは済まず、それ以上の効果を得るためにパケット処理を省くことで遅延を短くするしかなくなる」と話す。
例えば、パケットごとの課金処理や、IPsecによるカプセリング処理を省くといった方法だ。遅延は改善するが、「逆に、今の仕組みでできていることができなくなる」。課金については、超低遅延サービスにあった新たな課金モデルが必要になる。
キャリア網においてエッジコンピューティングを実用化するためには、こうした課題を解決する必要がある。